関係地域で起きていることを取材し、伝えるのは報道機関の役割だ。それをスパイ活動とは言いがかりとしか思えない。記者の即時解放を求める。 ロシア連邦保安局(FSB)が、北海道新聞ユジノサハリンスク支局の男性記者をスパイ容疑で拘束して1週間近くとなり、長期化が懸念されている。 記者は13日に極東サハリン州で拘束された。FSBは、記者が日本の情報機関の指示で「クリール諸島(千島列島と北方領土)」からウクライナへの軍事作戦に動員された兵士などの人数に関する情報を収集していたとし、阻止するため拘束したと説明している。 これに対し、北海道新聞は「政府から独立した報道機関であり、政府の指示に基づいて取材や情報収集を行うことはない」との談話を発表した。 同紙は地域報道の一環で1992年からサハリンに記者を常駐させており、当該記者はロシアの記者査証(ビザ)を取得している。 ウクライナ侵攻が長期化する中で、どれだけの住民が戦争に参加しているかを取材することは記者として当然だ。スパイ活動とする根拠は見当たらず、容疑をねつ造したとの疑念すら湧く。 記者が勾留されている拘置所は、国家反逆容疑など重罪の嫌疑をかけられた容疑者が勾留されてきた。モスクワの裁判所は2カ月の勾留を認めており、このままでは拘束が長期化する恐れもある。 日本政府はまず、ロシア側に記者の安全と健康の確保を強く働きかけなければならない。■ ■ 一方、在ロシア日本大使館が16日に求めた面会は実現しなかった。来週以降になる見通しだ。 日ソ領事条約の規定では拘束から4日以内の領事面会の権利を定めており、面会要請はこれに基づくものだった。 「領事関係に関するウィーン条約」の規定もほごにされた形だ。外国人を逮捕などで拘束した場合、その事実を「遅滞なく」通報することになっているが、日本へ領事通報があったのは15日だった。 FSBは通報の前に記者の拘束時や支局を捜索する際の映像も公開している。 ウクライナ侵攻以降、日ロ関係は悪化している。今年8月にはプーチン大統領が突然択捉島を訪問した。 拘束は、その後に日本政府が実施した追加の対ロ制裁に対する「報復措置」の可能性がある。■ ■ 政治的な取引や交渉の道具として人質を利用することは、国際法で明確に禁止されている。 しかし、ロシアではこれまでも自国のスパイなどとの身柄交換の手法としてジャーナリストが拘束されてきた。 日本新聞協会は松江市で開かれた新聞大会で、記者の拘束に対し「強い懸念と憤り」を表明し、早期解放を求めた。 「報道の自由」は民主主義の根幹だ。それを侵害するやり方は断じて認められない。