ラブホで逮捕、人気女優と離婚、仕事も失って…高知東生“どん底”で見つけた小説家の道「自助グループで気づけた“認知の歪み”」

「いま思えば、歪んだ認知だったのですけど、最初の2年は『ひとりで何とかしなきゃ、乗り越えなきゃ、今までそうやってきたんだ』と、そんな思いで苦しんでいました。でも、限界がきて、白旗を上げて、自助グループに通ううちに、依存症に苦しむ仲間に出合ったんですね」そう振り返るのは、俳優で、小説家の高知東生さん(61)だ。二作目となる小説『今日も眠れない』(光文社)を出版したばかりだ。今から10年前の2016年6月に、覚醒剤と大麻所持の容疑で横浜市内のラブホテルで逮捕された高知さん。仕事も失い、当時結婚していた女優の高島礼子さん(62)とも離婚。「自業自得でした」と振り返るが、どん底を体験した。男らしくなければならない、人に弱みを見せてはいけない――。そんな考えにとらわれていた高知さん。自助グループでのグループカウンセリングなどを通じて、自分の認知の歪みに気づいたという。「最初は、先輩たちの話すことに聞く耳を持たないんですよ。でも、だんだんと聞いていくうちに、『えっ、これって俺だけじゃないんだ』と思うんですよね。『自分だけの恥じゃないんだ。この人も同じように思っていたんだ』と気づくうちに、気持ちがすぅっと楽になる。それを何回も繰り返すうちに、自分も勇気をもって話してみよう、となったんです」同時に「12ステップ・プログラム」に取り組んだ。元々はアルコール依存症からの回復のためのプログラムで、自分の無力さや過去に段階的に向き合っていくものだ。「僕は、昔、『男たるものは、女たるものは』みたいな、すごい勝手な美学を自分で作り上げて生きていました。でも、それは本当に独りよがりで、目の前の大切な人にどこまで本気で向き合ってたかっていうことに気づかされました」そして、自分の過去も見つめ直すことができた。高知県で生まれた高知さんは、幼少期は祖母と叔父夫婦のもとで育った。小学生で、母と暮らし始めるが、母から父だと紹介されたのは広域暴力団のある最高幹部だった。高校生のとき、寮生活をしていた高知さんを訪ねた帰りに母が自死した。母の死後、役所で戸籍を確認すると、実父と思っていた人は養父で、自分には別の暴力団幹部の父がいることを知った。高知で暮らしていくことが苦しくなり、20歳で東京に出た。「少しずつ溜まった水がコップから流れ落ちてしまうように、積み重なった過去の苦しみと、薬物使用との関係性は自分ではわかりませんが、無関係ではなかったと思いました。やはり、自分の背景や、幼少のことを、すべてをさらけ出そうと思ったんです」2020年に出版した自叙伝『生き直す 私は一人ではない』(青志社)では、生い立ちや家族のこと、薬物使用のことなども赤裸々に書き、大きな反響を呼んだ。■最初は断ろうと思った小説の執筆。“仲間”が背中を押してくれた小説執筆のきっかけとなったのは、「日記のように、自分の成長記録や感じたことをありのまま出そう」と思って始めたX(旧Twitter)だった。「僕のXを編集者の人が見て、小説を書かないかというお話がきました。しかし、これまで本をたくさん読んできたわけでもないから、最初は『俺は無理だよ』と断ろうとしたんです」だが、背中を押してくれたのは、自助グループでできた仲間たちだった。「『やってみなきゃわからないし、できないと決めつけるより最善を尽くしてみたら?』『チャンスだよ』と言ってくれて。自信はなかったけれど、自分はエンタメでしか生きられない人間ですから、自分なりに考えて引き受けようと決めました」最初の原稿には編集者からたくさんの赤字が入った。何度も書き直した短編が文芸誌「小説宝石」(2021年1・2月合併号)に載った。郷里の同級生の女の子の思い出をもとに書いた「シクラメン」という作品だ。それからも、自分や母、祖母や旧友たちをモデルに小説を書き続けた。■「必ず同じ苦しみをもって生き直している人がいる」2023年1月、これらの短編を再構成してできた自伝的小説『土竜』(光文社)を出版した。「正直言って不安でしたね。これでいいのかなっていう。あんなことを起こしてしまった自分が、まして夢をもって小説家になりたいと思ってこなかった自分が書いた作品が、はたして世の中にどう思われるんだろう。自分の欠点なんだけど、よくない妄想とか、マイナスに考えたりしちゃうんですね。それに押しつぶされそうにもなりました」だが、いざ発売されると、反響は予想以上だった。「読んだ人から、『良かったよ』とか、『本当に昭和の時代を思い出した』とか『小説の中の土佐弁に久しぶりにノスタルジーを感じた』とか嬉しい言葉をどんどんいただいて。思ってた不安が吹っ飛んだ。小説を書いて『あぁ、良かったな』という気持ちに変わりましたね」それから3年。待望の第二作『今日も眠れない』が出版される。同作は各章のタイトルが子どもの遊具の名前で統一されているという。「自助グループの仲間たちの、僕よりも『えっ、そんな人生があるのか』という物語をいろいろ聞くことができて、そこから着想を得ました。公園をイメージして、一つひとつの遊具を人々の悩みや苦しみに見立てているんです。そこに共感して集まる人たちの姿がリンクするんじゃないかと思いました」自身の過去の反省も織り交ぜながら、今作では、人の心の奥深く、生きる上でのターニングポイントも描いたと胸を張る。「これを読んで『一人じゃないぞ』って。『勇気をもって助けてくれって声を上げろ』と伝えたいですね。必ず同じ苦しみをもって、そこから出会い直して生き直している人たちがいるから」(取材・文/インタビューマン山下)

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