日本に暮らす人の4割が「保険金詐欺」を犯罪だと思っていない。業界団体による、そんな残念な意識調査結果がある。 ある40代の男性会社員はネット上で見つけた「整骨院案件」の募集に手を出し、後に詐欺容疑で警察に書類送検された。指南されるまま少額の傷害保険に加入し、不正請求を繰り返したからだ。 こうした事件が近年、保険会社を相手に多発している。背景には、日本人の犯罪に関するリテラシーの低さがある。 ◇捕まった全国各地の「指南役」 10月、30~50歳の男性3人が警視庁捜査2課に詐欺容疑で逮捕された。 会社役員の水津宏大(35)=東京都北区▽個人事業主、山口森(50)=埼玉県深谷市▽会社役員、小篠正光(30)=広島県廿日市市――の3容疑者。 3人は2024年12月~25年8月、それぞれ40~50代の会社員男性と共謀し、保険会社にけがをしたと虚偽申告。傷害保険金9万~18万円をだまし取った疑いが持たれている。警視庁は3人の認否を明かしていないが、それぞれ全く別々の「保険金詐欺指南役」だったとみられている。 ◇「副業」求めた会社員たち 警視庁によると、3人はそれぞれ、「副業」をうたうSNSや月額制のオンラインサロンで実行役を募っていた。連絡を取ってきた相手に保険会社のリストや請求方法を伝え、けがをしたと偽って保険金を請求する手口を教えていたとみられている。 これに応募したのが、会社員の男性たちだ。 彼らは言われた通り、いくつもの傷害保険に加入し、「バスケットボール中に転んで手首を捻挫した」「自転車に乗っているときに子どもが飛び出してきて転び、肩や腰を痛めた」などの名目で保険金を請求。「(治療のため)整骨院に行った」と申請し、1回当たり3000円の保険金を上限の30回分受け取っていたという。 ◇少額傷害保険「自己申告」を狙い? 同じ手口が全国で多発する状況に、捜査幹部は「(指南役は)少額の傷害保険を狙っている」とみる。診断書の提出が不要で、整骨院への通院も事実上、自己申告で済むからだ。 今回の3容疑者による請求先は保険会社10社に上る。水津容疑者は実行役から最初に「サポート費用」として30万~40万円を受け取り、ほかの2人は支払われた保険金の半額を報酬としてレターパックや振り込みで送金させていた。 24年以降、水津容疑者の口座には200人以上から計8000万円が入金されていた。また山口、小篠両容疑者にも数十人以上からそれぞれ計1000万円の送金が確認されたという。 ◇不正請求を「犯罪」と思わない人たち 容疑者への入金記録が示すのは、それだけ指南を受けて不正請求をした者たちがいた可能性だ。背景には、保険金詐欺が十分に「刑事罰の対象になる」と認識されていない実態がある。 日本損害保険協会が2月に全国の16~69歳の男女2535人を対象にした意識調査によると、「保険金詐欺が犯罪と知って驚いた」という項目に対して「そう思う」「ややそう思う」と答えた人が全体の41%に上った。 また、同様に7009人を対象にした3月の調査では、保険金詐欺をした場合の懸念に「刑事罰を科される」を挙げたのは10、20代で6割を下回った。全体でも65%にとどまり、世代を問わず犯罪との意識は薄かった。捜査関係者は「不正の実行役には有名企業の会社員もいた。不正だと思いながらも『グレーなら』と金に目がくらみ、手を染めたのでは」とみる。 損保協会は、何度も不審な請求をしている保険加入者の情報を損保会社と共有する対策を取るとともに、こうした不正は「刑事罰や損害賠償責任の対象になる」と改めて警告している。【長屋美乃里】