「なんで今なの?」孫に会う10日前 命奪った飲酒事故は「過失」か

富山市の国道で昨年3月、横断歩道を歩いていた女性が車にひかれ、死亡した。運転していた男は2軒はしごして酒を飲み、一方通行を逆走した後に事故を起こしたとされる。富山県警は過失運転致死容疑で書類送検したが、遺族は「過失」ではなく「危険運転」ではないかと訴え、署名を集めている。 昨年3月21日午前1時過ぎ、土肥明さん(51)は仕事を終え、パートナーの井野真寿美さん(当時62)と遅い夕食を食べるため、富山市総曲輪(そうがわ)の国道41号を北へ渡ろうと、横断歩道の信号が変わるのを待っていた。 歩き始めて少しすると、突然左側に車が現れた。あっと思う間もなく井野さんがひかれた。止まった車の下から、井野さんの顔が見えた。服が後輪に挟まれ、動けない状態だった。 「平気か?」。土肥さんが抱きかかえて呼びかけると、「なんで私なん?」「なんで今なの?」と井野さんは苦しそうな表情で絞り出した。井野さんは10日後、マレーシアに住む長女の広瀬すみれさん(32)と孫(6)に会いにいく予定だった。 「突然、事故の連絡を受けて何が何だかわからなかった」。東京にいた井野さんの長男、中田康介さん(36)が搬送先の病院に駆けつけたが、井野さんは少しして息を引き取った。内臓を激しく損傷していた。 車を運転していた男(43)の呼気から基準値を超えるアルコールが検出され、男は道路交通法違反(酒気帯び)の疑いで現行犯逮捕された。 中田さんによると、男は勤め先の上司とともに井野さんの葬儀に訪れ、飲酒して事故を起こした状況などを中田さんらに説明したという。 県警は6月、男を過失運転致死容疑で書類送検した。捜査関係者によると、男は2軒をはしごして酒を飲んだ後、車をとめていた駐車場から一方通行を逆走する形で交差点に出て、横断歩道上の井野さんをひいて死なせた疑いがある。男は県警の調べに対し、飲酒と逆走について認めたという。 過失運転致死罪は「注意を怠った」事故で、最長で懲役7年。一方、危険運転致死罪は、最長で懲役20年と大きな差がある。 中田さんらは捜査を続ける富山地検に対し、「危険運転致死罪」での起訴を求めて街頭とオンラインで署名集めをしている。今月7日には、集まった4万7千筆を地検に提出した。 「飲酒運転で尊い命が失われたのに、過失というのは全く相当しない」と中田さんは話す。署名集めは今後も続ける方針だ。 オンライン署名は(https://bit.ly/409Ymjy)から。(染田屋竜太)

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