「今回の事件は渡辺被告が、被害者(義母)から逃れるために起こした事件です。渡辺被告は事件を起こす以外の方法により、被害者から逃れることはできませんでした」(弁護人) 同居していた義母(当時68歳)を殺害し、その死体を床下に遺棄したとして殺人と死体遺棄の罪に問われている渡辺美智子被告(55)の裁判員裁判の初公判が’25年1月29日、さいたま地裁で開かれた。 弁護人が証言台の前で冒頭陳述をはじめると、渡辺被告は両手で顔を覆って泣きはじめた。 「’23年4月28日、さいたま市内のアパートに住む被害者の長女から『母が死んでいる』と110番がありました。埼玉県警が家族に事情聴取するなかで被害者の長男の嫁である渡辺被告が浮上。犯行を自供したので、翌29日に死体遺棄の疑いで逮捕となりました。 その後、渡辺被告が『義母の首を絞めて殺しました』と供述し、5月19日に殺人の疑いで再逮捕されています。渡辺被告は動機について『私がお金を隠し持っていると毎日追及され、頭にきていた』と話しています」(全国紙社会部記者) 渡辺被告は結婚後、新潟市内で夫と息子の3人で暮らしていたが、’14年頃、さいたま市内のメゾネット式のアパートに引っ越した。 「さいたま市内のアパートでは、夫の母親と妹2人が加わり、6人で暮らしていいました。被害者は22日午後から行方がわからなくなっていましたが、家族が心配したり、探していた形跡がない。遺体が発見されるまでの約1週間、彼らがどんな生活をしていたのかなど、この事件には不明な点が多い」(前出・全国紙社会部記者) ◆実家から金を盗ってこい 初公判で泣き続けていた渡辺被告は“家族ヒエラルキー”の最下層に位置していたという。 「被害者となった渡辺被告の義母は”自分が渡辺家の要である”と自称。立場が最も低い渡辺被告に朝5時までに起床するよう命じ、弁当に入れる食材の色や夕飯の品数まで細かく指示した上、家族が家に出入りした時間やご飯を食べたかどうかの報告をさせていました。 義母はあるとき、渡辺被告の実家から金を引っ張ろうと考えました。義母が考えた台本通りに電話して、“実家から金を盗ってこい”と命じたのです。実際、渡辺被告は’18年8月から’21年6月の間に実家から770万円以上送金してもらい、義母に渡しています。実の母に嘘をついて金を騙し取った負い目と、義母の命令には逆らえないというジレンマで精神を病み、心療内科で治療を受けるほどに心の状態が悪化しました」(前出・弁護人) あまりの辛さから、’19年8月から約1ヵ月、ゲームサイトで知り合った岩手の男性のもとに家出したこともあった。弁護人によると、’18年11月に「ストーカーをして相手の妻に慰謝料300万を払わなければいけない」という義母が作った台本をもとに、実母から金を騙し取ったことが犯行のキッカケとなったという。 新潟駅で会った実母は渡辺被告に「もうこれ以上、お金はない」と言いながら150万円を渡した。帰ると義母が玄関先で待っており、その場で持ち物検査をして、「これは私が預かっておくから」と150万円を持っていったという。残りの150万円は後日、送金されている。 ◆目の前に霧がかかったかのように 義母の台本に従って実家から金を騙し取る生活は、’21年に実母が死去したことで終わりを告げた。 だが、’23年の3月ごろから、義母は「’18年に300万円を(実家から)受け取っているはずだが、自分は150万円しか受け取っていない」と言い始めたという。 「義母は『残りの150万円を渡せ』と渡辺被告に執拗に迫った。『持ち物検査までして確認したはずです』と申し入れても信じず、同じようなやり取りが連日、続きました」(前出・弁護人) このやりとりが何週間も続き、極限まで追い詰められた渡辺被告は’23年4月22日、突然、目の前に霧がかかったような状態になり、義母の声が遠くに聞こえるようになった。心の中でブチッと音がした後、渡辺被告は突発的に義母の首をビニールの紐で絞め殺害したと、弁護人は言うのである。 「この裁判の結論を導き出すためには、なぜ渡辺被告が義母を殺めてしまったのかを明らかにする必要があります。殺人事件という重大事件ではありますが、弁護人は執行猶予付きの判決を求めていきます」 弁護人はこう言って、冒頭陳述を終えた。 初公判には渡辺被告の夫であり、被害者の長男であるA氏も出廷。証人尋問が行われた。 続編記事『【床下収納から遺体が】さいたま市義母殺害事件・母の不在に家族が「1週間気付かなかった」衝撃の理由』では、A氏の証言により、渡辺被告と被害者の関係や、被害者が殺害されて遺体が発見されるまでの約1週間の間に家族でどのようなやり取りがあったのかが、少しずつ明らかになっていく。 取材・文:中平良