映画『パラサイト 半地下の家族』でチェ・ウシクの名を知った人は多いことだろう。もしくは『新感染 ファイナル・エクスプレス』や佐々木譲による同名小説を原作とした『警官の血』、カメオ出演したドラマ『サム、マイウェイ〜恋の一発逆転!〜』だろうか。 アカデミー賞やカンヌ国際映画祭パルムドール受賞など、世界中で絶賛された『パラサイト 半地下の家族』では、半地下でどん底の暮らしを強いられる中、お金持ちの家庭教師となり、徐々にその家庭に“寄生”していく青年を演じたチェ・ウシク。本記事では、シリアスな作品だけでなく、チェ・ウシクのバラエティに富んだ姿を見ることができる3作品をご紹介したい。 ■『狩りの時間』 荒廃した韓国が舞台のNetflix映画『狩りの時間』では、ハワイで暮らすことを夢見るジュンソク(イ・ジェフン)とともに、暴力団が運営する闇カジノを襲う若者ギフンを演じているチェ・ウシク。ギフンは犯罪はもう辞めたいと思っていたが、出所したばかりのジュンソクの望みを叶えるために、無謀とも思えるその強盗計画に参加。茶髪姿にやんちゃな笑顔が特徴的で、銃を持つ手は震え、計画の甘さが滲み出ているのも憎めないところだ。お金がなく絶望的な状況でありながらもチャンホ(アン・ジェホン)とじゃれ合う姿は、ハラハラ展開が多い物語に安心感を与えてくれる。 映画の後半では、大金を得て喜んでいる彼らの元に得体の知れない男が忍び寄る。その男が醸し出す緊迫感が映画全体を覆っていくのだ。恐怖におののきながらも、大事な親友たちとの悠々自適な生活を命がけで実現させるか、愛する両親と平凡な暮らしをするか。2つを天秤にかけて決断した、絶望の世界に生きる彼なりの道を応援したくなるはずだ。 ■『殺人者のパラドックス』 ドラマ『殺人者のパラドックス』では、どこか生気を失ったような平凡な大学生タンを演じている。彼はある日、アルバイトの帰り道、男に襲われて咄嗟に殺害してしまう。その場を立ち去ったものの、証拠が残っているのではと焦り、また罪の意識にも苛まれるが、なぜか証拠は消え、警察からも疑われることはなかった。この不思議な現象の後、彼は再び意図せず殺人を犯すが、自分が殺した人間はいずれも凶悪殺人鬼であったことを知り、殺人鬼が殺人鬼を殺すという“パラドックス”が出来上がっていく。 チャン・ナンガム刑事(ソン・ソック)は、最初からタンを怪しむが、証拠が見つからずに逮捕することができない。タンが人を殺してしまった理由を知っている視聴者としては、「相手も殺人鬼なのだからタンはむしろ“正義”なのでは?」と、ナンガム刑事よりもタンのことを応援してしまうのではないだろうか。これはチェ・ウシクという俳優が持つ愛らしさと、演技に落とし込んだ弱々しさ、そしてタンの不思議な能力に、まんまと魅了されてしまったからなのかもしれない。徐々に追い込まれていく2人の演技にもきっと吞み込まれることだろう。