広瀬すずの“目の演技”が光る 『クジャクのダンス、誰が見た?』の考察だけじゃない魅力

金曜ドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』(TBS系)が面白い。第1話からは張り巡らされた伏線の数々を読み解くべく、SNSでは考察合戦が行われている。 浅見理都の同名漫画を原作に、クリスマスイブの夜に元警察官の父親を殺された娘が、遺された手紙を手がかりに真相に迫るヒューマンクライムサスペンス。映画『サバカン SABAKAN』やNetflix『サンクチュアリ -聖域-』などの金沢知樹が脚本を担当している。、 第1話では街が色めき立つクリスマスイブの夜に、大学生の山下心麦(広瀬すず)が父・春生(リリー・フランキー)と行きつけの屋台でラーメンを食べる平和な描写から幕を開ける。だが、その何気ない幸せも一瞬にして絶望に変わってしまう。心麦が家を留守にしている間に火事に見舞われてしまい、春生は帰らぬ人になってしまった。春生が22年前に逮捕した資産家一家惨殺事件の犯人・遠藤力郎(酒向芳)の息子・友哉(成田凌)が放火犯として逮捕。心麦がラーメン店の店主・染田(酒井敏也)から受け取った春生が残した封筒には、現金300万円と手紙が入っていた。そこには友哉が冤罪であるという衝撃的な告白が記されていたのだ。 タイトルの『クジャクのダンス、誰が見た?』はインド哲学に由来しており、“たとえ誰も見ていなかったとしても、犯した罪から逃げることはできない”という、本作が提示するメッセージを的確に表している。たとえ、犯行現場を目撃した人物がいなければ、そこで起きた事件の真実は誰にもわかるはずはない。つまり、唯一の目撃者である犯人のみが、全てを知っているということだ。それだけではない。「心麦が本当に春生の娘なのか?」という疑念とカラビナの男と検事・阿南由紀(瀧内公美)の関係性など、まだまだ謎に包まれていることが多い。その犯人をめぐる人々の思惑や重厚なストーリー設定が本作の魅力である。 心麦は、早くに母親を亡くし、元警察官の父親とともに平和な暮らしをていた。そこで起きた父親の死。父親の葬式では親戚に気丈に振る舞う強さを見せていた心麦だが、部屋で涙をこらえて父親との思い出に浸る姿は年相応の少女の姿だった。それでも、弁護士の松風義輝(松山ケンイチ)に真っ先に依頼しに行ったり、一人で闇雲に事件の真実を知ろうとする向こう見ずな行動力はそこら辺の大学生をゆうに超えている。 そうした心麦という存在を奥行きのあるものにしているのが広瀬の演技力、特に大きな瞳にある。筆者が広瀬の演技に魅了されたのは映画『ちはやふる』シリーズだ。“競技かるた”に打ち込む女子高生の綾瀬千早を演じた広瀬の真剣なまなざしと躍動感のあるかるたシーンでは、力強い生命力を感じた。NHK連続テレビ小説『なつぞら』でのアニメーターを目指して絵描きに没頭する姿や『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS系)での瑞々しい恋愛模様など、何かに熱中している広瀬の目には生命が宿っている。それは現実以上に現実的なものとして伝わってくるのだ。2月21日から公開される映画『ゆきてかへらぬ』の長谷川泰子はまさにそんな広瀬が詰まった役だった。愛への欲望と嫉妬。人としての危うさが凝縮された泰子は広瀬が宿した生命力があってこそ成立した役だったように思う。 広瀬は『クジャクのダンス、誰が見た?』で演じた心麦について、「こうと決めたことに真っすぐ突き進んでいく強さを出そうとすると、子どもっぽさが薄れてしまうので、そのあんばいは難しいですし、雰囲気を大切にしています」と語っている(※)。大学生という子どもと大人の狭間にいる心麦の目には広瀬しか出せない求心力が備わっていた。

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