ロンドン在住のブルガリア国籍男女3人、ロシアのためスパイ活動で有罪判決

ダニエル・ディ・シモーネ調査担当編集委員、エイミー・ウォーカー記者 英ロンドン在住のブルガリア国籍の男女3人が、ロシアのためのスパイ活動について有罪判決を受けた。 警察は、外国による「イギリスにおける最大規模」の諜報活動の一つだと位置づけている。 ヴァーニャ・ガベロヴァ被告(30)、カトリン・イヴァノヴァ被告(33)、ティホミル・イヴァンチェフ被告(39)の3人は、2020年から2023年にかけて、欧州各地をめぐってジャーナリストや元政治家、そしてドイツの米軍基地などを監視していたグループの一員だった。 普段は美容師、医療従事者、装飾業者として働いていたが、所属していたスパイグループは、標的を誘拐し殺害する計画や、いわゆる「ハニートラップ」も企てていた。 ロンドン警視庁のドミニク・マーフィー警視長は、その手法は「スパイ小説で見られるようなもの」だと説明した。 ■「スパイ道具の宝庫」 3人の被告は、スパイ活動の共謀罪で有罪判決を受けた。また、イヴァノヴァ被告は複数の偽造身分証明書を所持していた罪でも有罪となった。 3人は、同じブルガリア国籍のオルリン・ルセフ被告(47)のために働いていた。ルセフ被告は、イングランド東部ノーフォーク州グレートヤーマスにある元ゲストハウスから、スパイ集団を束ねていた。 警察はここで、ネクタイに隠されたカメラ、偽の岩に隠されたカメラ、録音装置を内蔵しためがねといった「スパイ道具の宝庫」を発見した。 ルセフ被告は自分の部下たちを、「ミニオン(子分)」と呼んでいた。人気アニメ映画「怪盗グルー」シリーズでもグルーの小さく黄色い部下たちは「ミニオン」と呼ばれる。被告のいたゲストハウスからは、スパイカメラを内蔵したアニメの「ミニオン」のぬいぐるみも複数見つかっている。 ルセフ被告は先に、ビセル・ザンバゾフ被告(43)と共に、共謀してスパイ活動を行った罪を認めている。また、6人目のメンバーのイヴァン・ストヤノフ被告(34)は、裁判前にスパイ活動を認めていた。 このグループの主な標的は、調査報道記者のクリスト・グロゼフ氏とロマン・ドブロホトフ氏だった。グロゼフ氏とドブロホトフ氏は、2020年にロシアの野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏に対して行われた神経剤攻撃や、2018年に英ソールズベリーで元ロシアスパイのセルゲイ・スクリパリ氏に対して行われた攻撃について、ロシアの役割を暴露したことで知られている。 ガベロヴァ被告は監視活動の一環として、グロゼフ氏と友人になるよう指示されていた。ルセフ被告はワッツアップのメッセージで、グロゼフ氏が「ガベロヴァに夢中で恋をしている」と表現していた。 このグループは別の作戦では、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の時期に、ウクライナ兵が訓練を受けていた軍事施設での監視活動を行っていたという。 裁判中、アリソン・モーガン検事は、このスパイ組織は「個人や場所の監視活動を行い、偽の身分証明書を作成・使用し、情報を取得するために高度な技術を駆使するなど、手法が洗練されている」と述べた。 警察の捜査では、携帯電話221台、SIMカード495枚、ドローン(無人機)11台のほか、携帯電話からデータを抽出する装置や、Wi-Fi通信を盗聴するための装置が押収された。 ロンドン警視庁の対テロ部門トップを務めるマーフィー警視長は、この事件は「極めて高度な」作戦で、「国家安全保障と個人を脅かすものだった」と述べた。 ■「ロシア情報機関の仲介者」から指示 ルセフ被告は、金融サービス会社ワイヤーカードに関連する詐欺容疑でドイツで指名手配されているヤン・マルサレク容疑者から指示を受けていた。 検察は、オーストリア国籍のマルサレク容疑者を「ロシア情報機関の仲介者」とだと説明している。 ルセフ被告とマルサレク容疑者は10年前に出会い、ルセフ被告は後にスパイとして採用された。ルセフ被告はその後、複数のブルガリア人をスパイ活動のために雇用した。 ルセフ被告はかつて、ロンドン市内の金融会社で最高技術責任者を務めていた。 ストヤノフ被告は医療品の配送員として働いていたが、「ザ・デストロイヤー」というニックネームで総合格闘技の試合にも出場していた。 ザバゾフ被告とイヴァノヴァ被告はカップルとして同居し、医療関係の仕事に就いていたが、同時に「イギリスの価値観」に関するコースを提供するブルガリア人コミュニティー団体も運営していた。 しかし、ザバゾフ被告はガベロヴァ被告とも関係を持っており、警察が逮捕に踏み切った際には一緒にベッドにいるところを発見された。また、イヴァンチェフ被告も過去にガベロヴァ被告と関係を持っていた。 裁判中、イヴァノヴァ被告とガベロヴァ被告は監視活動を行ったことを認めたが、それがロシアの利益のためだとは知らなかったと主張した。 イヴァンチェフ被告は裁判中に証言しなかったものの、逮捕後の警察の取り調べでは同様の立場を述べた。イヴァンチェフ被告は、他の5人から1年遅れて逮捕され、英情報局保安部(MI5)と何度か接触していたと警察に語った。 ■六つの作戦 作戦1:ジャーナリストのグロゼフ氏を標的にした作戦。 マルサレク容疑者とルセフ被告は、グロゼフ氏に対してどのような作戦行動をとるか、メッセージを交換。飛行機でグロゼフ氏の隣に、チームメンバーを配置することなどを話し合っていた。グロゼフ氏はヨーロッパ中で追跡されていたほか、オーストリアとブルガリアでは、同氏に関連する不動産物件も監視されていた。 また、グロゼフ氏のノートパソコンや電話を奪ってロシア大使館に持ち込むこと、同氏の家を焼き払うこと、同氏を誘拐してモスクワに連れて行くこと、あるいは殺害することも検討していた。 作戦2:ジャーナリストのドブロホトフ氏を標的にした作戦。 グループはドブロホトフ氏を複数の国で追跡していた。また、イギリスで誘拐し、小型ボートを使って国外へ拉致する計画を話し合っていた。 ある時点で、イヴァノヴァ被告は飛行機でドブロホトフ氏のすぐ近くに座り、電話の暗証番号が見られるほど接近した。 作戦3:裁判では、2021年11月にベルゲイ・リスカリエフ氏という人物を標的にした作戦があったことが明かされた。 リスカリエフ氏はカザフスタン国籍の元政治家で、イギリスに逃れた後、亡命が認められた。 裁判では、ロシアがカザフスタンとの関係をより良好にすることがロシアの国益につながるため、この作戦の動機は明確だとされている。 検察側は、カザフスタン政府のために反体制派を標的にし、カザフスタンが支援と見なすものを提供することが、両国関係をより良くすると説明した。 作戦4:この作戦では、2022年9月にロンドンのカザフスタン大使館での妨害活動を計画していたという。 裁判では、大使館の外で「偽の抗議デモ」を行い、責任者について本物の情報を持っているふりをして、それをカザフスタン情報機関に渡し、ロシアのためにカザフスタンの好意を得ようとする計画だったことが明らかにされた。 作戦5:この作戦では2022年後半、独シュトゥットガルトの米軍基地「パッチ・バラックス」での監視活動が行われた。 被告らは、ロシアによるウクライナ侵攻のただなか、ウクライナ軍がこの米軍航空基地で地対空兵器の訓練を受けていると信じていたという。 検察側は、被告らの計画は、基地内にいる人物に関する重要な情報を収集するため、高度な技術を駆使してこの航空基地を標的にすることだったと述べた。 作戦6:この作戦では、キリル・カチュール氏という人物を標的にしていた。 ロシア国籍のカチュール氏はかつてモンテネグロに滞在していたことがある。ロシア連邦捜査委員会に勤務していたが、2021年に国を離れ、2023年11月にロシアから「外国代理人」として指定された。 (英語記事 Bulgarians guilty of spying for Russia in the UK)

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