3人の赤ちゃんの遺体を自宅アパートに遺棄し、うち1人を殺害したとして、36歳の母親が懲役6年の判決を言い渡された。高松地裁での裁判員裁判で問われたのは、なぜわが子に愛情を持ちながら殺害や死体遺棄に至ったのか、だった。ノンフィクションライターの三宅玲子さんが取材した――。(後編/全2回) ■裁判長は「どうして」と問いかけ続けた 「どうして生命維持の動きをしなかったの? 殺すより、その辺のコンビニに置いてくる方がましだったんじゃない? 違いますか?」 「本能的な愛着はあったんでしょう。死体に添い寝までして、それから遺棄しているんだから。そういうことをするくらいだから、わが子だったらなんとかして生かしてあげたいと思ったでしょう?」 裁判長が矢継ぎ早に問いかけた。女性は尋問席で身を固くしている。 高松地裁1号法廷、裁判長が見下ろす先に座る女性(36歳)の罪状は、殺人罪と死体遺棄罪。2024年2月、3人の赤ちゃんの死体を隠し持っていたことと、うち1人の赤ちゃんの殺害により逮捕された。2月17日から始まった裁判員裁判の2日め午後、深野栄一裁判長が待ち構えたように口を開いた。 「どうして」を連発して裁判長は被告女性を追い込む。頭髪を掻きむしるような仕草からは、裁判長自身が「心底わからない」という思いをぶつけていることが見てとれた。 筆者はこれまで7件の孤立出産殺害遺棄事件の裁判を傍聴したが、裁判長がこのように感情を剥き出しに女性に問いかける場面を初めて見た。だが、裁判長の型破りな問いかけには理由がある。なぜなら、雛壇に並ぶ8人の裁判員にとっても、また、45席の傍聴席を埋めた傍聴人にとっても、被告女性の犯行動機はあまりに解せないものだった。 ■住民票も保険証もなく、極度の困窮状態 〈ほえーっと泣いて、うんちが出るとすんっとした表情。にっと笑った顔がかわいかった。表情豊かな子でした〉 前日、検察官が読み上げた供述調書の、赤ちゃんが生きていた頃の様子を語るくだりだ。 独特の言葉を選んだ表現、そして、3年経っても赤ちゃんの姿を生き生きと浮かび上がらせた記憶の確かさは、彼女が関心を持って赤ちゃんを見つめていたことを伝えている。それは「愛情」だったと思わずにはいられない。 供述調書によると、客との性行為による妊娠がわかったとき、女性は極度の困窮状態にあった。住民票を持たず保険証がなく、中絶費用を捻出できなかった。病院に行かず1人で産んだら、身体が落ち着いてから熊本にある赤ちゃんポストに連れて行こうと思った。だが、コロナ禍の不運が重なり、出産直前には5日連続で客がつかず、往復の旅費4万円の目処が立ったのは、出産前日だった。 ところが予定外の事態が起きる。アパートで出産してから5日め、電気が止まる。電気代を滞納していたのだ。