モットーは「皆殺し」、隠語で命令も ドゥテルテ氏率いた暗殺部隊

フィリピンのドゥテルテ前大統領が推し進めた薬物犯罪対策「麻薬戦争」を巡り、同国大統領府は11日、訪問先の香港から帰国したドゥテルテ氏に対し、国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状を執行したと発表した。ICCが人道に対する罪で逮捕状を発行し、国際手配していたという。 ICCは予備調査の開始から7年にわたる捜査によって、麻薬戦争の実態をあぶり出した。 ◇ヒットマンの男性、部隊の実態明かす 「スーパーマンから『イレース』(消去)せよとの命令を受けていた」。ドゥテルテ氏が組織した「暗殺部隊」に初期メンバーとして関わり、2016年に退官するまで30年近く「ヒットマン」を務めたという元警察官の男性は、ICCの事情聴取にそう語った。 南部ダバオ市の警察署で勤務していた男性は1989年、当時市長だったドゥテルテ氏の指揮下にある部隊に配属された。スーパーマンとは、ドゥテルテ氏のことを指している。 毎日新聞が入手した男性の宣誓供述書によると、イレースという言葉は皆殺しや大量殺人を意味する隠語だった。ドゥテルテ氏は薬物密売人らの暗殺を自ら命じていたという。 当初8人だった部隊のメンバーは、次第に増えて20人以上になった。だが証拠を残さないようにするため、狙撃の実行役となるのは常に2人までだった。「(目撃者を含めて)皆殺しにするのがドゥテルテ氏の命令であり、部隊のモットーだった」。男性は月3万5000~12万ペソ(約9万~31万円)の報酬を受け取り、クリスマスにはボーナスとして15万ペソ(約38万7000円)が支給された。 殺害対象の人物には、ドゥテルテ氏が「公然と恥をかかされた政敵」やその関係者も含まれた。ドゥテルテ氏が16年に大統領になってからもこうした命令はしばらく続いたという。対象の社会的地位などに応じて、最大50万ペソ(約130万円)が支払われた。 男性は、報酬の資金源について、中国系密売組織の関係者が摘発を逃れるために提供していたと証言する。ドゥテルテ氏が進めた政策は麻薬撲滅を目指すものだったが、「ドゥテルテ氏自身が麻薬組織とつながっていた」と述べた。 男性は、暗殺部隊が関わったという密売組織の幹部らの殺害や拉致、死体遺棄など約60件の犯罪について、186ページに及ぶ供述書で詳細に告白している。ドゥテルテ氏の側近の親族が「地元で繰り返し強盗や窃盗などを働いている」と訴えた未成年の兄弟が、部隊が仕組んだ抗争によって刺殺されたこともあった。 殺害は側近を通じて命じられることもあったが、男性は「暗殺部隊はドゥテルテ氏の個人的な殺人マシンのような存在だった」と振り返る。強硬な違法薬物対策も「今思えば、ドゥテルテ氏の内なる野望や彼自身の犯罪を隠すためのまやかしだった」と述べた。 ICCは暗殺部隊に関わったという複数の元警察官から証言を得たほか、殺害された容疑者の遺族らにも事情聴取した。ドゥテルテ氏批判の急先鋒(せんぽう)で、ICCへの告発者の一人でもあるアントニオ・トリラネス元上院議員は、「長年の捜査はドゥテルテ氏が麻薬戦争の名の下、恐怖によって支配しようとしていたことを明らかにした」と語った。【マニラで石山絵歩】

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