事実は小説より奇なり!『ヒットマン』『アメリカン・ハッスル』など実話を基にした痛快クライムドラマを紹介

「事実は小説より奇なり」と言われている通り、実際に起こった事件が人々の想像を超えてしまうのは、しばしばあること。信じられないほど凶悪な犯罪が世間を騒がせることもあるが、一方で道徳的にはいかがなものかと思いつつ、あまりに意外すぎて笑ってしまうものもある。これは映画の題材にはうってつけ。犯罪を題材にすればスリルが宿るし、主人公をデフォルメしてユーモアを強調することも可能だ。そしてなにより、実話だからこそにじみ出る等身大の人間味が効いてくる。 本日、DVD&Blu-rayがリリースされた『ヒットマン』(23)は、まさしくそんな作品だ。地味で目立たないコミュニティ・カレッジの教員が、裏では警察の囮捜査に協力して、大胆にも殺し屋を演じ続け、70人以上の殺人依頼者の逮捕に貢献していた!そんな「テキサス・マンスリー」誌掲載の記事に目をつけたのが、『スクール・オブ・ロック』(03)や『6才のボクが、大人になるまで。』(14)で知られる鬼才リチャード・リンクレイター監督。『トップガン マーヴェリック』(22)でブレイクしたグレン・パウエルを主演に迎え、犯罪あり、笑いあり、ロマンスありの意外性満点のエンタテインメントに仕上げた。本作についてはのちほど解説するとして、本稿ではほかにもある実話ベースのユーモラスな犯罪ドラマを紹介していきたい。 ■世界中を飛び回った16歳の詐欺師の逃亡劇『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』 まずは、このジャンルの定番であるスティーヴン・スピルバーグ監督、レオナルド・ディカプリオ主演の『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(02)。1960年代、両親の離婚を契機に家出して、16歳で詐欺師となり世界中を駆け回った男フランク・W・アバグネイル・Jr.の若き日の実話に基づき、FBIの追跡を巧みにかわしつつ、パイロットや医師、教員になりすまして詐欺を重ねてきた青年の犯罪遍歴を描いている。大胆にして鮮やかな手口、それが子どもによってなされた事実が、なんとも痛快。やっていることは悪事だが、それでも魅了されるのは、ディカプリオの好演もあってのことだろう。 一方で、ハイティーンらしく自我に揺れ、孤独を募らせては自分のことを追いかける宿敵のFBI捜査官に電話をしてしまう、そんな部分も味となっている。フランクの逮捕に執念を燃やしながらも彼に同情する捜査官を演じたトム・ハンクスの好演も印象的だ。 ■ティーンたちが空虚な輝きを見せる『ブリングリング』 ティーンの犯罪といえば、ソフィア・コッポラ監督の『ブリングリング』(13)も忘れるわけにはいかない。2008~09年にロサンゼルスで、セレブの家を荒らし回り窃盗を働いて逮捕された少年少女たちの実話に基づいている。主人公の転校生マーク(イズラエル・ブルサード)は孤独のなかで、レベッカ(ケイティ・チャン)という少女と仲良くなり、彼女のグループとつるみだした。自由奔放なレベッカや血のつながらない姉妹のニッキー(エマ・ワトソン)とサム(タイッサ・ファーミガ)らは、パリス・ヒルトンをはじめとする有名セレブの家に侵入してはバカ騒ぎを繰り広げるが、その享楽は長くは続かなかった。 セレブの屋敷に不法侵入し、SNSにその画像をアップする彼女たちに、悪びれる様子は一切なし。見方によっては世間知らずのバカどもと思えなくもないが、セレブが取り沙汰されるようになった21世紀に現れるべくして現れたティーンエイジ・モンスターにも見える。戸締りに無頓着な、セレブたちの不用心にも驚かされる!? ■天才詐欺師がFBIの捜査に協力!『アメリカン・ハッスル』 大人の犯罪ドラマにも目を向けてみよう。アカデミー賞候補にもなった『アメリカン・ハッスル』(13)は、1970年代に起きたアブスキャム事件と呼ばれる収賄スキャンダルに基づいている。FBIは議会内の汚職を摘発するため、アラブの大富豪を装ってニセの投資話を広めた。そしてこの作戦にはキーパーソンとして、凄腕の詐欺師が関わっていた! 映画はこの実在の詐欺師メル・ワインバーグをモデルにした主人公アーヴィン(クリスチャン・ベール)の視点で事件を再構築している。デヴィッド・O・ラッセル監督はこの史実にロマンスやコンゲームの要素を絡め、悪いヤツだが人情もあり、事態をなんとか丸く収めようとするアーヴィンの必死の奔走を鮮やかに描出した。 ■”殺し屋のフリ”が抜群に上手い大学講師の驚くべき実話『ヒットマン』 さて、注目の『ヒットマン』。主人公ゲイリー・ジョンソンはもちろん実在の人物で、普段は気弱だが、囮捜査で殺し屋を演じると、役になりきって強気になってしまうキャラクターとして描かれている。 大学教員として心理学と哲学を教える傍ら、様々な人間に変身し囮捜査に奔走するという2つの顔を持つゲイリー。ある時、殺し屋としての彼にマディソン(アドリア・アルホナ)という女性から夫殺害の依頼が届く。彼はセクシーな殺し屋ロンに扮して彼女の事情を聞いていくが、深入りしていくうちに恋に落ち、逮捕すべき彼女を見逃してしまう!そしてこれが思いも寄らない事態を招くことに…。 捜査対象である殺人の依頼主である女性に殺し屋と思われたまま関係を育まざるを得なくなるのだからおもしろい。映画で描かれるロマンスはフィクションだが、夫からのDVに悩まされ殺害を依頼してきたこの女性を、ゲイリーは逮捕するのではなく、適切な支援を得られるよう手配したのは事実。こういうところに、生身の人間性がにじみ出ている。 『ヒットマン』にはほかにも、毎回異なる殺し屋に変装するパウエルの七変化や、主人公と警官たちとのやりとりなど、ユーモラスな見どころがある。実話が持つ現実味を踏まえつつ、「小説より奇なり」なドラマを楽しんでほしい。 文/有馬楽

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