ラッパーとしてはもとより、グラビアディガー、テレビのコメンテーターなど、多岐にわたって異彩を放っている呂布(りょふ)カルマ。『週刊プレイボーイ』の連載コラム「呂布カルマのフリースタイル人生論」では『会社の設立』について語った。 * * * ★今週のひと言「プロラッパーを名乗って10年、4月1日、俺は社長になった」 4月1日、毎年毎年、SNSかリアルかを問わず、世間では知恵を絞り、ユーモアも絡めてさまざまなウソや冗談を競い合うエイプリルフール。 かくいう俺も、そのゲームには誰の記憶にも残らない程度に品よく参加していて、遅ればせながらここで言いたい。 今年4月1日に俺は社長になりました。 いや、ウソではない。ウソだとしたらあまりにセンスがない。 まるで売れていないアイドルやコスプレイヤーが粗末な合成画像で「このたびAVデビューすることになりました」のあれよりヒドい。あれはマジでおもんない。 30歳過ぎまでバイトや中途採用で就職しては数年でクビになり無職と転職を繰り返し、漫画家の嫁さんに半ば世話になりながら、当時ブームとブームの間の氷河期的に儲からないジャンルであった日本語ラップにかじりついていた俺。 10年ぐらいそんな生活を続けているうちに次第に飯が食えるようになり、今度は家族に飯を食わせられるようになり、いつの間にかラッパー以外でも呂布カルマとして仕事をもらえるようになった。 そんな俺がついに会社をつくって、代表取締役社長となったのだ。……たったひとりの会社の。 約10年前、最終職歴である学習塾の教室長の職を珍しくクビではなく自主退社し、すぐに開業届を出して「呂布カルマ」として個人事業主となった。当時はそれだけでも少し鼻を高くしていたのを覚えている。 というのも、世の中のラッパーの大半はラップ1本では生活ができなくて、ほかに職、つまり生業を持っている。納税の義務はそちらの生業で果たし、ラッパーとしての収入はなかったことにしてしまうのもザラ。初めてのギャラはせいぜい5000円程度からだったので、確定申告するまでもないのだ。また、とっぱらいでやっているラッパーも多く、おそらく確定申告なんてやっていないだろう。俺もそうだった。 そうすると自分が青春時代に憧れたラッパーなんかが逮捕されたときに、メディアを通して「自称ラッパー」と報じられてしまう。開業届も出ていなければ、ラッパーとして納税もしていないだろうから、どれだけ名が売れていようが、世間的には無職かフリーターとなってしまうのだ。 そういう意味で、個人事業主となった時点で俺はプロフィールに「プロラッパー」と表記するようになった。 しかし、個人事業主というやつはいくら頑張って働けど、悪いことでもしてるんじゃないかと勘違いしそうなほどに税金を取られることになる。 俺が法人化したのは、何も仕事の幅を広げるためではない。完全に税金対策でしかない。 そんな後ろ向きな理由なので、実は税理士さんから2年以上前から法人化を勧められていながらも、日々の忙しさにかまけて後回しになっていた。 すでに日本人史上最高の偉人であるドジャース・大谷翔平でさえ、当時通訳であれほど近しい関係にあった水谷一平に裏切られたというニュースも、法人化に二の足を踏む理由のひとつになった。 会社化して他人を雇うことへの恐怖から、結局そこからズルズルと引き延ばし、節税することなく税金を納め続け、個人事業主となってから10年の今年、キリよく法人化し、次のステップに進むこととなったのだ。 この会社をすぐに畳むハメにならないよう、これまで以上に「呂布カルマ」業に邁進(まいしん)していきます。 撮影/田中智久