集合住宅の駐車場の植え込みに子犬5匹を置き去りにしたとして、名古屋市の飼い主の女性が逮捕されたという報道がありました。報道によると、5匹の子犬は生まれたばかりで歯も生えておらず、歩くこともできない状態で身を寄せ合っていたそうです。近所の人が110番通報したことで幸い無事に保護されました。 警察の取り調べに対して、女性はお金がなくて飼育できなかったという主旨の供述をしているとのことです。 今回はこの事件について解説します。 ■ ペットの遺棄は犯罪 昔のマンガやテレビ番組などをみていると、段ボール箱に入れられて道端に捨てられている「捨て犬・捨て猫」がしばしば登場します。心優しい人物に拾われる展開を期待するところですが、これは今では犯罪にあたります。 動物愛護管理法44条3項は「愛護動物を遺棄した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。」と定めています。 「遺棄」とは、対象を移動させたり置き去りにすることで場所的に隔離することにより対象の生命・身体を危険にさらす行為をいいます。 買い物に行くために犬を駐車場の片隅に繋いでおいたら「遺棄」したと犯罪にされてしまってはいけません。あくまで「対象の生命・身体を危険にさらす」遺棄だけが犯罪になるのです。 危険性の判断は、離隔された場所の状況、動物の状態、目的等の諸要素を総合的に見る必要があります。 ■危険性の判断 ペットは人間の保護が必要な生き物です。 そうすると、捨てた場所が道路や駐車場のような危険な場所ではなく、公園や空き地のような比較的安全な場所でも、飢えや疲労等、あるいは自ら移動することにより生命・身体の危険に直面するおそれがありますので、「遺棄」に当たる可能性があることは考えておく必要があります。 また、ペットではない野良犬や野良猫であっても、捨てた場所の状況によっては、生命・身体の危険に直面するおそれがあります。例えば、餌や水を得ることが難しい場所、厳しい自然にさらされるおそれがある場所、事故に遭うおそれがある場所や、野生動物に捕食されるおそれがある場所などは危険な場所に当たります。 人通りの多い場所など、誰かに拾ってもらえることが期待される場所であっても、必ず保護されるとは限らないので、同様です。 また、安全な場所に捨ててきたとしても、病気や怪我などで自由に行動できない状態にある個体や、老齢や幼齢の個体などは、捨てること自体が生命・身体に対する危険に直面するおそれがあると言えます。 ■まとめ このように、子犬・子猫がたくさん生まれてしまい、世話ができないからといって捨ててしまうと犯罪になる可能性があります。 かと言って無理に飼っても、食事が満足に与えられないとか動物病院に通わせられないなど満足に世話ができなければ、動物愛護法44条2項の虐待行為に該当して犯罪になる可能性もあるのです。 また、無理な多頭飼育もまた、「飼養密度が著しく適正を欠いた状態で愛護動物を飼養し若しくは保管することにより衰弱させる」ことになってしまえば、やはり犯罪に該当します。 ペットを飼うことはお金がかかるという現実を直視して、どのくらいの費用がかかるのか、将来的に、場合によっては20年間ほども飼い続けることができるのか、子犬・子猫が生まれたらどうするのか、など、飼う前にしっかりとシミュレートしておかなければなりません。 子犬、子猫が無秩序に増えてしまうことを防ぐため、ペットを飼う場合は去勢避妊をしておくべきです。多くの自治体で助成金制度が用意されていますので、忘れずチェックするようにしてください。 ◆石井 一旭(いしい・かずあき)弁護士法人SACI・四条烏丸法律事務所パートナー弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。