捜査や公判の刑事手続きをIT化する規定を盛り込んだ刑事訴訟法改正案が18日、衆院本会議で賛成多数で可決された。現在は紙と対面のやりとりが原則だが、令状や訴訟記録の電子化、オンラインの活用が可能となり、手続きの円滑化が見込まれる。今後、参院で審議される。 刑事手続きのデジタル化で捜査現場はどのように変わるのか。 広大な面積を誇る北海道では、逮捕状を得るため、車で片道2時間超かけて裁判所まで令状請求に行くことも珍しくない。 道警刑事企画課によると、日本最北端の宗谷岬が管内にある稚内署の場合、稚内簡裁に裁判官がいる日が限られ、離れた別の簡裁や地裁に請求に行かなければならないケースもある。 名寄市の名寄簡裁までは片道約170キロ。夏場でも車で往復約6時間を要する。雪道となる冬季は、その1・3~1・5倍かかり、天候状況によっては泊まりがけになることもある。 法改正されれば、裁判所に行かずに令状をオンラインで請求でき、発付された電子令状はタブレットなどで容疑者に示して執行できる。「オンライン化されれば業務が効率化される。現場はみんな喜んでいる」と道警担当者は歓迎する。 複数の警察幹部によると、薬物捜査でも合理化が図れるという。薬物検査を拒否した人から採尿する場合、捜索差し押さえ許可状が必要になる。 捜査員は令状が発付されるまでの間、相手を説得して逃亡を防ぐ措置を講じるが、長時間に及ぶ留め置き行為は違法と判断されるケースもある。裁判所に行き来する時間がなくなれば、そうしたリスクを減らすことも期待できる。 このほかストーカーや家庭内暴力(DV)などでは、いち早く容疑者を逮捕して被害者の安全を確保しなければならない場合もあり、令状請求の時間短縮はプラスに働くという。 供述調書などの捜査書類も電子化されるが、現在はパソコンで作成し、すべて紙で印字している。事件現場の実況見分などの写真は、手作業で1枚ずつ紙にのり付けして押印し、印影がにじまないようにセロハンテープを上から貼っている。写真が数百枚になることもあり、大きな手間になっていた。ペーパーレスになれば写真を貼り付ける必要もなくなり、省力化につながるという。 ただ、捜査書類や訴訟記録には、被害者ら関係者のプライバシー情報が多く含まれる。政府は警察、検察、裁判所をつなぐ専用回線を整備し、情報漏えい対策を徹底するとしている。 サイバー犯罪に詳しい元警察官僚で中央大法学部の四方(しかた)光教授(刑事法)は「特定の組織で限定的に使う閉域網なら、サイバー攻撃のリスクは格段に減るが、テクノロジーが進化する中で絶対はない。流出した事態を想定してデータの暗号化など最大限備える必要があるだろう」と指摘する。【後藤佳怜、松本ゆう雅、菅健吾、山崎征克】