マッチングアプリでの「ぼったくり」被害の実態は…

マッチングアプリをきっかけにした「ぼったくり」被害が相次いでいます。今年に入ってから警視庁が確認した被害総額は1億円を超えています。実態を取材しました。 マッチングアプリで知り合った男性をバーに誘い入れ、ぼったくり行為をしたなどとして、警視庁は東京都ぼったくり防止条例違反の疑いで、5月13日に男女3人を逮捕しました。3人は秘匿性の高いアプリでやりとりをして犯行に及んでいて、警視庁は匿名・流動型犯罪グループ=「トクリュウ」による犯行とみています。このグループによって2024年9月から2025年5月までの8カ月間で男性54人が被害に遭っていて、被害額はおよそ8000万円に上ります。また、障害者向けのマッチングアプリでも障害があると装って登録し、ぼったくり行為を行っていたということです。 このグループによる被害のほかにも、マッチングアプリきっかけのぼったくりは相次いでいて、警視庁は今年=2025年1月から5月3日までの間におよそ140件、1億4500万円ほどの被害を確認しています。 <マッチングアプリ関連のトラブルは増加> マッチングアプリの利用者はコロナ禍をきっかけに急激に増え、それに伴ってアプリをきっかけとしたトラブルも相次いでいます。東京都消費生活総合センターによりますと、2020年度に2948件だった相談件数は、2021年度に3700件ほどに急増し、その後、免許証の登録などをはじめとした個人情報の取り扱いについてアプリ側の規制が強化されたことで減少傾向にはあるものの、トラブルは依然として多くあるのが現状です。 飲食店で高額な料金を請求されたぼったくりの相談数に限ると、全体のトラブル相談が減った中、2022年度には2倍以上に増え、その後も100件を超え続けています。相談者の9割は20代から30代で、平均被害額は2023年度にはおよそ185万円、2024年度もおよそ76万円と、いずれも高額となっています。 <巧妙で悪質な手口 被害の実態は…> 相談があったぼったくりトラブルの具体的な手順を見てみます。 まず被害男性は、アプリで知り合った女性と実際に会った際、女性から「行ってみたい店がある。飲み放題で3000円から5000円ぐらい」などと誘われ、女性が指定した飲食店に向かうことになります。飲食店に着くと、店は女性に対し「ゲームをやろう」などと持ちかけ、酒をたくさん勧めます。この時、女性はショットなど少量の酒を何杯も頼むのが特徴だということです。 しばらくたつと、仲間と思われる店員が「会計が高くなっているが、大丈夫ですか?」と確認に来ますが、この時には既に40万~50万円ほどになっていることが多く、中には100万円を超えている例もあるということです。 そして男性が「払えない」と伝えるとその場でスマホを没収し、近くのコンビニなどのATMに連れていかれ「払えるだけ払え」と現金を引き出すよう求められるといいます。また、引き出した額では足りなかった場合には、足りない分をクレジットカードでキャッシングするよう求められ、それでも足りない場合には貴金属店に移動してクレジットカードで商品を購入させ、その足で質店に移動し、男性自身に換金までさせるということです。そして、ここで店員が現金を受け取るとようやく男性は解放される ──というような手口が相次いでいるということです。 先日逮捕された事件では“酒を薄めて”提供したことが分かっていて、これは「何杯も飲ませることで金額が上がる」ため、女性を酔わせないために薄めていたのではないかとみられています。警視庁が把握している案件の中には、消費者金融の融資が下りるまでサウナで監禁した事例や、実家まで取り立てに来た例もあるということです。 <34万円被害男性「心に穴…堂々と運営していて腹立つ」> マッチングアプリで出会った女性にぼったくりバーに連れていかれ、被害に遭った男性に話を聞くことができました。 都内で会社員をしている26歳の男性は、2024年12月にマッチングアプリで1人の女性と出会いました。被害男性は「身なりとかも普通にどこにでもいるような女性で、会話自体、普通にして楽しかったのだが…」と話します。しかし女性から「気になっているお店があるから行こう」と誘われ指定された飲食店に向かうと、その場所がぼったくりバーだったということです。 「飲み放題1人5000円」と説明を受けて入店し、最初は談笑しながら酒を飲んだということですが、途中から女性がメニューを見ずにショットグラスに入った酒を注文し始め、気が付くとテーブルの上には10を超えるショットグラスが並んでいたといいます。そして、その酒が“飲み放題の対象外”だったのです。 男性は当時の状況を振り返り「急に店の入り口から背の高いお兄さんが『ちょっとお客さん、本当はこういうこと言いたくないんだけど、お金大丈夫ですか?』という感じでやって来て、外に呼び出され、財布の中身全部見せろと言われ、全部持っていかれて。その後、最寄りのコンビニまで連れていかれて30万円ぐらい引き出して持っていかれた」と証言しました。 男性は所持金とATMで下ろした現金、合わせて34万円を支払わされました。男性は「殴られたり、下手したら殺されたりするのが怖いので、いったん払って逃げるかということにしてしまった」と語りました。男性はその足で最寄りの警察署に駆け込み、後日、消費生活センターにも相談に行ったそうですが、結果として泣き寝入りになってしまったということです。 男性は「本当にもう、心に穴が開いたような感じ」と話し「最初は悲しかったが、後々もう腹立つのが勝ってきた。一番イライラするのは、そのバーがSNSで店舗の運営をしていることを堂々と発信していて、楽しそうに経営しているのが本当に腹立つ」と悔しさを口にしました。 取材に応じてくれた男性は、その後、友人から指摘されるまで一緒にいた女性も被害者だと思っていて、だまされたことに気付いていなかったということです。 <弁護士「支払い義務は発生しない」> 純粋な出会いだと思っていた先で待ち受けている悪質な犯行に対し、私たちはどう対応すべきなのでしょうか。刑事事件に詳しい弁護士に話を聞きました。 弁護士法人プロテクトスタンスの大橋史典弁護士は「ぼったくり被害に遭った場合、基本的に支払い義務は発生しない」といいます。その上で「請求を受け、ぼったくりだと把握した段階で警察署に相談に行くなどの対処が望ましい」と話しています。そして「支払ってしまった場合、その金額に納得・合意したということになるので、後からお金を返してほしいと言っても『払ったでしょ』という反応を相手がしてくる可能性もある。現金で支払うのは絶対にやってはいけない」と注意を呼びかけています。また「そもそも、初対面の女性・男性から誘われたよく分からないバーに行かないというのが重要」とも指摘しました。 大橋弁護士は被害を未然に防ぐため「初めて会う人が勧める怪しい店には行かず、自身で店を予約する」などの対策を勧めています。また「店に行ったとしても、店内の様子やメニュー表を写真などで収めておくことで『値段設定になかった』などを示す証拠になる」と話します。さらに可能であれば「店員とのやりとりなどを録画・録音しておくことが、身を守る一つの手段」とも話していました。 実際には携帯電話を没収されたり恐怖で動けないということもあるため、なかなか難しいこともあるかもしれません。しかし、たとえ現金で支払っても諦めず、解放されたらすぐに警察に連絡をすることや、消費者センターや弁護士に相談することで事件化につながることもあるため、何もしないで泣き寝入りをすることは避けなければなりません。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加