【社説】ストーカー事件 命守れなかった責任重い

ストーカー被害におびえる女性と家族のSOSが軽視されたのは明らかだ。最悪の結果を防げなかった警察の責任は重大である。 川崎市の住宅で、行方不明になっていた20歳女性の遺体が先月見つかった。神奈川県警は元交際相手の27歳男を死体遺棄容疑で逮捕し、きのう横浜地検は死体遺棄の罪などで起訴した。地検は認否を明らかにしていない。県警は女性の死亡への関与についても調べている。 なぜ命を守れなかったのか。事件の全容解明はもちろん、女性が昨年12月に行方不明になるまでの県警の対応、容疑者逮捕に至る捜査の在り方の徹底検証が必要だ。 女性は昨年6月、交際相手とけんかになったと警察に通報して以降、待ち伏せ被害などを訴えた。12月には「自宅付近をうろついて怖い」などと9回も通報した後、行方不明になった。 信じ難いのは県警が「ストーカー被害の相談を受けていたという認識はなかった」と説明していることだ。男による暴行について、女性が被害届を取り下げたことなどが理由という。 ストーカーの被害者は恐怖や緊張から心身ともに不安定になりやすい。加害者から脅されたり、極度の不安に襲われたりして取り下げた可能性を疑わなかったのか。 県警は男に対し口頭注意にとどめ、ストーカー規制法に基づく警告や付きまといの禁止命令を出さなかった。危機意識の欠如と言う他ない。遅くとも12月の段階で踏み込んで対応すべきだった。 捜査も後手に回った。男は任意聴取を7回受け、失踪当日の付きまといを認めたにもかかわらず、失踪から遺体発見まで約4カ月もかかった。女性の父親は「ずっとストーカー(規制法違反容疑)で捕まえてくれと言ってきた」と主張している。 警察庁は昨年、恋愛感情のもつれに絡む暴力的事案は急展開して重大事件に発展する可能性が高く、被害者らの安全確保を最優先に対応するよう全国の警察に通達した。今回、これがなおざりにされたのが残念でならない。 ストーカー規制法は埼玉県桶川市の女子大生殺害事件を受け、2000年に制定された。全国の警察へのストーカーに関する相談は年2万件前後で高止まりし、検挙件数は年約3千件に上る。23年に福岡市のJR博多駅近くで起きた女性刺殺事件も、痛ましい事案だった。 迅速な捜査が行われない背景に、ストーカー事案を扱う生活安全部門と事件を捜査する刑事部門との連携不足が指摘されている。民間や公的な支援団体との協力も欠かせない。捜査関係者は被害者や加害者の心理状態に関する知識を学ぶ必要もある。 都道府県警によって対応の差があるようだ。教訓が警察全体で共有されていないのではないか。点検を急ぎたい。

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