福岡・直方市で2年連続汚職事件 専門職への権限集中が招いた不正

福岡県直方市を舞台になぜ、汚職事件が繰り返されたのか――。県警捜査2課は2024、25年の2年連続で直方市職員を収賄容疑で摘発した。事件の背景を取材すると、専門知識のある一部の技術職員に権限が集中し、周囲が不正行為に気づけない状況が常態化していた。 「構造的な不正を検挙できたことは大きな意義があり、検挙をもって社会的に警鐘を鳴らすことができる」。県警捜査2課の冨樫良平課長は、直方市建築管理課主査の森健悟被告(43)=収賄罪で起訴=を逮捕した4月30日の記者会見でそう強調した。 森被告は、市が随意契約で発注する十数件の機械設備工事で市内の管工事会社が選定されるよう便宜を図った見返りに、20年6月~24年4月に同社の代表取締役らから計25万円相当の電動工具などを受け取ったとして逮捕され、5月21日に起訴された。 市によると、市は専門知識を生かして業務を効率化し、工事の質を向上しようと、15年4月に市で初めての機械設備専任の技術職として森被告を採用した。それまでは機械設備関連工事の業者選定は複数の職員が分担していたが、森被告の採用後は全て1人で担うことになった。 そのため機械設備の工事が必要になると、発注する担当課から依頼を受けた森被告が業者を選び、担当課がそのまま随意契約を結ぶようになった。業者選定に「第三者の目」が入ることはなく、不正を見抜けなかった。 森被告はこの仕組みを利用して管工事会社を受注業者に選ぶだけでなく、管工事会社の見積額が試算より低かった場合、「もう少し上げていい」と見積額を増額させて高値で受注させていた。 直方市では24年にも、水道施設課係長だった阿部智明被告(50)が浄水施設の除草工事で、市内の上下水道設備工事会社を下請けに入れるよう浄水施設の運転管理の委託業者に推奨し、上下水道設備工事会社側から見返りに釣り具やゴルフ用品を受け取ったとして収賄罪で逮捕、起訴された。 阿部被告も技術職として委託業者とのやり取りを一任され、下請け業者を意のままに選べる状況だった。阿部被告は25年1月に懲役2年、執行猶予4年の有罪判決を受け、控訴している。 いずれの事件も、専門性が高く経験の長い技術職に業者選定が事実上、一任され、不正行為に気づけなかった。市は事件を受け、特定の技術職に権限が集中する状況を改め、1人で業者選定することをやめたという。 森被告が逮捕された4月30日の会見で、大塚進弘市長は「信頼回復は一朝一夕にはいかないかもしれないが、節度ある業務執行がなされるよう襟を正していきたい」と語った。【栗栖由喜】

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