「ルパン三世」銭形警部は“マヌケ”なのか? 『銭形と2人のルパン』のハードボイルドな人物像

2Dでは約30年ぶりとなる『ルパン三世』の劇場アニメで、小池健監督による「LUPIN THE IIIRD」シリーズ最新作となる『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』が6月27日に公開される。これに先駆け、6月20日から『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』の配信が始まった。これが凄い。いつもはコメディリリーフのような役柄の銭形警部が、モンキー・パンチの原作漫画に描かれるようなハードボイルドぶりを見せてルパン三世と対峙する。新作に直接繋がる作品でもあり、銭形ファンも「LUPIN THE IIIRD」シリーズのファンも必見だ。 ■原作・アニメ初期で描かれた「強くて執念深い」銭形 銭形警部はマヌケなのか? アニメの「ルパン三世」シリーズを見て来た人につきまとうイメージだ。泥棒稼業に勤しむルパンを捕まえようと犯行現場に駆け付けるものの、いつもルパンとその一味に出し抜かれて取り逃がす。これで本当に優秀な警察官なのか。エリート揃いのICPO(国際刑事警察機構)のメンバーなのかと呆れられている。 モンキー・パンチによる原作漫画『ルパン三世』の銭形は違う。第1話「ルパン三世颯爽登場」から登場しては、幾度となくルパンを追い詰める。第128話と第129話で描かれる「ルパン葬送曲」では、ルパンも驚くような方法で一味を追い詰め、シリーズ自体をいったん完結させる。 第56話「DEAD・HEAT」では、F1マシンでレースに出たルパンを、同じF1ドライバーとして追いかけ回す。おおすみ正秋が監督を務めていた最初のTVアニメ『ルパン三世 1st series』で、第1話として放送された「ルパンは燃えているか‥‥!?」が、そんな強くて執念深い銭形をそのまま描いていた。 おおすみ監督のTVアニメは、ルパンも次元大介もクールで石川五ェ門は凄腕の剣客といった風情で、エロティックで妖艶な峰不二子も含めて大人の雰囲気を醸し出していた。ところが、おおすみ監督が降板して、高畑勲監督と宮﨑駿監督によるAプロダクション演出グループが演出に携わるようになると、全体にコメディ色が濃くなっていく。 特に銭形は、ルパンを追い詰めながらドジを踏んで逃げられるという、コメディリリーフのような役割が与えられるようになる。第15話「ルパンを捕まえてヨーロッパへ行こう」の銭形は、ルパン逮捕の褒賞としてヨーロッパ旅行に出かけた飛行機の中でルパンが逃げ出したことを知り、飛行機を下ろせと暴れる。実に無様で滑稽だ。 3年で155話という人気シリーズとなった『ルパン三世 PART2』では、こうしたコメディリリーフとしての役割が固定化した感じだった。放送期間中に宮﨑駿監督によって作られた『ルパン三世 カリオストロの城』については、ルパンを追ってカリオストロ公国に乗り込んで来て、そこで巨悪を見てルパン相手に一時休戦するライバルとしての立ち居振る舞いを見せていたが、昭和の実直な男といった雰囲気で、原作漫画やTVアニメの第1シリーズ初期にあったハードさとは趣が違っていた。 銭形警部はルパンたちの引き立て役に過ぎないのか? そんな印象が6月20日から配信が始まった『LUPIN THE IIIRD 銭形警部と2人のルパン』で完璧なまでに粉砕される。とにかく強い。そして怖い。ルパンを追って世界を歩く警視庁公安部所属の銭形警部が、立ち寄ったロビエト連邦の空港で爆弾テロに巻き込まれる。ルパンが犯人らしいといった情報が出回り、銭形はそのルパンを見つけ逃げられても列車の中で再度見つけてぶん殴る。 そこから始まる追いかけっこの途中で、爆弾魔が現れ爆破テロを起こした際には近くにいたロビエト連邦の女性保安要員をかばって大ケガを負う。それでも倒れることなくルパンを追って追って追い続ける銭形は、もしかしたら原作の漫画すら超えてハードボイルドかもしれない。山寺宏一がコミカルさを完全に封印して演じていることもあって、かつてない銭形のカッコ良さを堪能できる。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加