シカゴ「最初の同性愛者たち」展の必見作品10選。350点超の作品からクィア概念を再考する意欲展

人類の歴史では、クィアネス(*1)は人間の「在り方」としてではなく、「行為」として捉えられていた時期がほとんどだ。しかし、現在シカゴのアートスペース、ライトウッド659(Wrightwood 659)で開催中の意欲的な展覧会「The First Homosexuals: The Birth of a New Identity, 1869-1939(最初の同性愛者たち:新しいアイデンティティの誕生 1869年〜1939年)」は、そうした流動的な定義から、より具体的なLGBTQ+のアイデンティティ表現への変遷を追っている。 *1 「クィア」は、同性愛者やトランスジェンダー、ノンバイナリーなど性的マイノリティや既存の性の枠組みにあてはまらない人々全般を指す言葉。LGBTQの「Q」。 集合住宅を改装した3階建てのスペースに展示された貴重な作品は350点を超える。そのほとんどは、ハンガリー人ジャーナリスト、カール=マリア・ケルトベニーが「同性愛」と「異性愛」という用語を考案した1860年代から、ファシズムの台頭でLGBTQの市民がそれまでにない激しさで迫害された1930年代までの間に制作されたものだ。 40もの国を代表するアーティストの作品が並ぶこの展覧会は、西洋のクィアの概念を見直す試みと言えるだろう。ペンシルベニア大学で美術史を教え、今回の展覧会の主任キュレーターであるジョナサン・カッツが展覧会図録に寄せた序文によると、参加した研究者の中には、展覧会タイトルに「同性愛」という用語を使用することに難色を示す者もいたという。その序文でカッツは次のように書いている。 「同性愛(homosexual)という呼称の発展と使用は、芸術分野においてさえ常に解放的であったわけではない。この言葉は解放的なイメージと共に数多くの同性愛嫌悪的なイメージを生んできた。それだけでなく、中欧起源の用語・概念として植民地征服の血塗られた道と密接に結びつき、その過程で先住民の性に対する意識を書き換えてきた。ヨーロッパ諸国の支配下に置かれる前、先住民の性に対する考え方ははるかに寛容で、尊厳あるものだった。イギリス、フランス、スペイン、オランダといった主要宗主国は、しばしば植民地の法律を文字通り改変し、同性愛に対して厳しい刑罰を課すようになった」 「The First Homosexuals」展は、アメリカにおいてクィアネスを再び消し去ろうとする機運が高まる中で開催されている。展覧会の企画が始まってから、出品が予定されていたにも関わらず、所蔵先から貸し出しを撤回された作品が4点ある。ハンガリー(現スロバキア)生まれの画家ラディスラフ・メドニャンスキーの絵画2点と、レズビアンのコロンビア人アーティスト、エナ・ロドリゲスの2点の木炭画で、メドニャンスキーの作品を所蔵しているスロバキア国立美術館は、新館長(前館長は昨夏、右派の文化相の意向で退任)が「最初の同性愛者たち」という展覧会テーマを知るや否や、貸与を取りやめている。 一方、ロドリゲスの木炭画の所有者は、ドナルド・トランプの大統領就任により作品が危険にさらされるリスクが高まったとし、出展を見送った。会場ではこれらの作品の代わりに複製と解説文が展示され、その不在が明示されている。「右翼の弾圧のために展示できなかった作品があったことを来館者に知ってもらうことが何よりも重要だと考えました」とカッツは話す。 以下、展覧会のハイライトとしてカッツが推す10点の作品を紹介する。なお、ライトウッド659では、2022年~23年にも「The First Homosexuals: Global Depictions of a New Identity, 1869-1930(最初の同性愛者たち:世界に広がった新しいアイデンティティの表現、1869-1930)」と題した展覧会を実施している。

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