(CNN) フランス・ボルドーの通りから人影がまばらになった午前1時半ごろ、マノンさん(22)は腕に注射針が刺さるチクリとした感覚を覚えた。 マノンさんはCNNの取材に、「誰かに左腕を軽くたたかれた。ワクチンを打った時のように筋肉の感覚が麻痺(まひ)し始め、約30分後には注射痕が浮かび上がった」と振り返った。 何を注射されたのか、誰の行為なのかは分からなかったものの、「パニックになりたくなかった」とマノンさんは語る。 マノンさんは先週末にフランス各地で開催された野外音楽祭の最中、注射針で刺されたとの被害を訴えた150人近くの一人だ。こうした襲撃は「ニードルスパイキング」と呼ばれるが、内務省によると、ロヒプノールやGHBなどの「デートレイプドラッグ」が使用されたかどうかは不明。実行犯は複数いたとみられる。 大勢の人を集めた今回の音楽祭に先立ち、フェミニストのインフルエンサーの一人は、「女性を注射器で狙え」と呼び掛ける投稿がSNS上にあったと警告していた。 22日午前4時から7時まで救急室で過ごした後、マノンさんは動画投稿アプリTikTokに自身の体験を投稿した。 「注射針で刺された人の証言が見当たらなかったので、注意喚起することが重要だと思った」とマノンさん。身の安全のため姓は明かさなかった。 「SNSでは気を付けてねと言われていたけど、どうやって事件が起きるのか、どんな症状があるのか、どういう経過をたどるのかなど、もっと詳しく知りたい人はいると思う。話すことができて安心した。あの時は本当に孤独だったから」 病院から帰宅後、マノンさんは警察に被害を届け出た。「面倒くさがって『他の人が被害届を出してくれるはず』と言っていたら何も変わらない。もしかしたら何か変化が生まれるかもしれない、と自分に言い聞かせた」 フランス警察の報道官が24日に地元ラジオに語ったところによると、警察は21日以降、外国籍を含む19歳から44歳までの男14人を拘束した。ただ、今回の注射事件との関連で逮捕者は出ていない。