福井市で女子中学生を殺害したとして逮捕されてから38年。懲役7年の有罪判決が確定し、服役した男性に、名古屋高裁金沢支部が18日午後2時、やり直しの裁判(再審)の判決を言い渡す。男性は「やっていない。無罪がほしい」と話している。 事件が起きたのは1986年3月19日夜。福井市の市営住宅の一室で留守番をしていた中学3年の女子生徒(当時15)が殺害された。灰皿で頭を殴られ、電気カーペットのコードで首を絞められ、顔や胸など約50カ所を刃物でめった突きにされていた。 約1年後の87年3月、当時21歳だった前川彰司さん(60)が福井県警に逮捕された。「被害者とは会ったこともない」と一貫して無実を主張したが、起訴された。 前川さんと事件をつなぐ物証はなく、公判で争点となったのは「事件の夜、血の付いた前川を見た」といった知人らの供述の信用性だった。 事件直後に「血だらけだった」前川さんが乗ったとされる車から、被害者の血痕は見つからなかった。「血の付いた前川さんの衣類」に関する知人の証言は「家に持ち帰った」「川に捨てた」と二転三転した。 一審・福井地裁は90年、知人らの供述に矛盾があり、「信用できない」として無罪を言い渡した。だが、検察側が控訴。二審の名古屋高裁金沢支部は知人らの供述について「大要は一致している」として逆転有罪判決を出し、確定した。 服役を終えた前川さんは、弁護団とともに2004年に再審を請求。2度目となる22年の再審請求では、検察側から287点の捜査資料が明らかにされた。 その中に、再審開始のカギとなる捜査報告書があった。「血の付いた前川さんに会う前に見た」と知人が供述した歌番組の印象的な場面の放映日が、じつは事件の1週間後だったとする県警の捜査報告書だ。一審途中の89年に作成されていたが、34年以上伏せられていた。 再審請求審では、証言した1人に警察官が結婚祝いを渡していたことなども判明した。 名古屋高裁金沢支部は昨年10月、捜査機関が知人らの供述を誘導した可能性があると指摘し、再審開始を決定した。 検察側は再審公判で「前川さんが犯人」と主張する一方、新たな証拠は出さなかった。弁護団は「知人らが警察官らの誘導に迎合して事実に反する供述をし、前川さんを無実の罪に陥れた冤罪(えんざい)事件」だと訴え、即日結審した。 18日の判決公判では、前川さんを無罪とする判決が言い渡される公算が大きいとみられる。(荻原千明)