大統領夫人となってすぐの2022年6月、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議出席のためスペインを訪問した際、民間人である李元模(イ・ウォンモ)大統領室人事秘書官の妻シンさんを同行させて物議を醸した。いわゆる「秘線実勢(陰の実力者)補佐」論争だ。当時、金氏が着用していた6000万ウォン(約640万円)相当のヴァンクリーフ&アーペルのネックレスにも冷ややかな視線が向けられた。特別検察チームによって、ソヒ建設から贈られた贈賄性の上納品と指摘されていた、まさにそのネックレスだった。 高級ブランドバッグ受領疑惑は、さらに深刻だった。在米韓国人のチェ・ジェヨン牧師が2022年9月、金氏に30万ウォン台のディオールのバッグを贈呈し、その場面を腕時計型の隠しカメラで撮影・公開した事件だ。批判が殺到したが、金氏は最後まで謝罪しなかった。 そして極めつけが「ミョン・テギュン事件」だった。尹氏と金氏が当時与党だった「国民の力」の公薦に関与したとの疑惑が提起され、2人は「捜査を受けるべきではないか」というより厳しい批判に直面した。この事件が尹氏の非常戒厳令発動へとつながり、最終的な没落の直接的な原因になったのではないかという分析もある。 もちろん、金氏を制御しようとする試みがなかったわけではない。大統領選当時、側近の間では内部問題を先制的に検討・除去する「レッドチーム設置」案が出たが、すぐに壁にぶつかった。当時の状況を知る人物は、「『金建希レッドチーム』を提案した人物が尹候補に完全に潰された」とし「その後、キャンプでは『金建希』という名前は禁句になった」と語った。政権発足後も「特別監察官の任命」や「第2付属室の設置」など、さまざまな案が提示されたが、ことごとく失敗に終わった。 昨年の総選挙直前には、韓東勲(ハン・ドンフン)当時国民の力非常対策委員長も「高級バッグ受領疑惑について、尹大統領または金夫人の立場表明が必要だ」と牽制(けんせい)に乗り出したが、逆に自身が追放される危機に直面した。 こうして金氏は次第にアンタッチャブルな存在となり、結局は政権と夫妻の同時没落につながった。12日に請求された金氏の逮捕状には、ドイツモーターズ株価操作疑惑、ミョン・テギュン公薦介入疑惑、コンジン法師請託疑惑などの容疑がずらりと並んでいる。さらに偶然にも海外逃亡中だった「金建希の執事」ことキム・イェソン氏(元IMSモビリティ大株主)が、金氏の逮捕と時を同じくしてこの日帰国した。金氏の受難期は、今まさに幕を開けたばかりだといえよう。