エド・トーマス、イギリス編集長 イギリスで今夏に相次いだ騒乱で、暴徒たちに放火方法をオンラインで指南していたネオナチをBBCがフィンランドで特定し、質問を突き付けた。 20歳のこの人物は、メッセージアプリ「テレグラム」で「サウスポート・ウェイク・アップ(サウスポートよ目を覚ませ)」というチャットグループを管理する一人で、「ミスターAG」というハンドルネームで知られていた。このチャットグループに放火マニュアルを投稿し、一番上に固定していた。 このグループは7月下旬から8月上旬にかけ、イングランドと北アイルランドで暴力事件に発展した抗議活動の組織化と扇動に重要な役割を果たした。 BBCは、「チャールズ=エマニュエル・ミッコ・ラサネン」という本名をもつミスターAGを追跡し、フィンランドの首都ヘルシンキ郊外のアパートにいるのを突き止めた。 英サウスポートから1600キロメートル以上離れたこの場所から、このネオナチはイギリスでの暴動をめぐり、オンライン上で際立った役割を果たした。 サウスポートで7月29日、米歌手テイラー・スウィフト氏をテーマにしたダンス教室で3人の少女が殺害された事件すると、数時間以内に、テレグラムに「サウスポート・ウェイク・アップ」が作成された。 それから数日で、メンバーは1万4000人以上に膨れ上がった。ラサネン氏(オンライン上ではミスターAGとして知られていた)は、グループチャットの運営を支援した。 このグループは、殺害事件の翌日、国内最初となる抗議デモをサウスポートのセイント・ルークス・ロードで実施した。この抗議デモは後に暴動へと発展した。 テレグラムによってチャットグループが削除される前に、他の一連の抗議場所が告知され、また、潜在的な標的として数十件の難民センターのリストも提示された。 ミスターAGはこのリストと共に放火マニュアルを投稿し、「面白い読み物だ」と書き込んだ。 このマニュアルは、ロシアがテロリストに指定している同国のファシスト集団によって書かれたとみられている。 マニュアルには、警察の目を避ける方法の詳細が記載されているほか、イスラム教徒とユダヤ教徒を標的にするよう推奨する記述もある。 この投稿の下には、他のメンバーが攻撃的で侮辱的なコメントを書き込んでいた。中には、「移民の子供たちを標的にする準備ができている」とするものや、「白人を見くびっているばかな集団」の「侵略者たち」と表現するものもあった。 ミスターAGがこの投稿をグループの一番上に固定したため、1万4000人のメンバー全員がログインした際に、その投稿を目にすることになった。 当時、イギリス各地でいくつかの暴動が発生していた。 BBCはフィンランドを訪れ、事前にメールを送っていたラサネン氏と対面した。ラサネン氏は我々のすべての質問に対して回答を拒否したが、投稿を行ったことや、「サウスポート・ウェイク・アップ」の管理者であることは否定しなかった。 我々が立ち去る前に、ラサネン氏はBBCに嫌がらせをされたと非難し、警察に通報した。 ■英騒乱を機に影響力を拡大 ラサネン氏は自身のテレグラム・アカウントでナチスのアドルフ・ヒトラーを称賛し、アメリカでテロ組織として禁止されているネオナチ団体「北欧抵抗運動」を宣伝している。 また、音声メモも投稿しており、そのうちの一つでは自身を「国家社会主義者」と称していた。別の音声メモでは、ユダヤ人に対するジェノサイド(集団虐殺)を呼びかけているようでもある。 フィンランド国営放送YLEの調査ジャーナリスト、ヴェリ=ペッカ・ハマライネン氏によると、ラサネン氏は「長年」インターネット上で活動しているという。 ハマライネン氏のチームもまた、ラサネン氏に接触し、イギリスの騒乱における役割を尋ねた。 ハマライネン氏はラサネン氏について、「サウスポート・ウェイク・アップ」関わるようになって以降、孤立した過激派から、何千人ものオーディエンスを持つ人物へと変貌を遂げたとみている。 「これは、孤立したインターネット上の戦士がどれほど危険になり得るかを示す一例だ」とハマライネン氏は言う。 ハマライネン氏によると、フィンランド警察の記録からは、ラサネン氏が10代の頃に違法な脅迫を行ったとして捜査されたが、起訴されたことは一度もないことが分かったという。 BBCは、ラサネン氏が過去にイギリスの極右白人ナショナリストグループ「ペイトリオティック・オルタナティヴ(愛国的な選択肢の意、PA)」とインターネット上でつながりを持っていたとの情報も得ている。 反ファシスト研究グループ「レッド・フレア」によると、ラサネン氏は非公開のゲームグループチャットのアクティブなメンバーであり、彼の投稿はPAの主要人物によって共有されていたという。 これにはPAのヨークシャー地域担当、サム・メリア氏も含まれていた。メリア氏は今年初め、人種憎悪を扇動した罪で収監された。 イギリス暴動の最中、ミスターAGは「北欧には同じ暴力がいつ訪れるのか?」とも投稿していた。 レッド・フレアは、ミスターAGの正体と、「サウスポート・ウェイク・アップ」と彼のつながりを最初に明らかにした団体だ。同団体の広報担当者は、ラサネン氏は自らの行動に責任を取るべきだと述べた。 「これは、外国でキーボードの前に座っている若者が、イギリスで人種差別的な暴力を始めたケースだ。今日の極右の国際的な性質を露呈している」と、レッド・フレアは指摘している。 BBCがPAに連絡したところ、同グループは具体的な質問には回答を拒否したが、ミスターAGがPAの公開チャンネルに投稿した内容について「問題ない」と述べた。一方、ミスターAGが他のチャットグループに投稿した内容にはPAは関与していないと述べた。 一方、テロ対策法に関する政府の独立審査官であるジョナサン・ホール氏はBBCの取材に対し、「もしラサネン氏がイギリスにいたならば、2006年テロ法に基づいて逮捕・起訴されるだろう」と述べた。 ホール氏は、昨年テロリズムを宣伝した罪で起訴されたケースの少なくとも半分は、テレグラムが関係していたとみている。 フィンランドは、ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)後の2021年に、EU全域にわたる協定の適用除外に署名したため、イギリスとの間で身柄引き渡し協定を結んでいない。ラサネン氏の件に関して、引き渡し要請やその他の措置が取られているかについて、英内務省はコメントを控えている。BBCは、何らかの逮捕状が出されているとの情報は得ていない。 フィンランド国家警察委員会は、「この問題を認識している」と述べているが、それ以上詳しいコメントはできないとした。 テレグラムの広報担当者はBBCに対し、8月に暴力的な投稿が発見された際、モデレーターが「サウスポート・ウェイク・アップ」を含む複数のイギリスのチャンネルを削除したと語った。 テレグラムは声明で、「もちろん、この件に関しては、適切なルートを通じて、イギリスおよびフィンランド両政府と協力する用意ができている」としている。 イギリス政府の報道官は、ソーシャルメディア・プラットフォームに違法コンテンツの削除と誤情報の拡散防止を義務付けるオンライン安全法の施行を急いでいると述べた。 「我々は、インターネットがコミュニティーの分裂を狙う人々の隠れ家となることを許さない」と報道官は述べた。 (追加取材:レベッカ・ウェアン、エリカ・ベンケ、フィリップ・エドワーズ、シャイアン・サルダリザデフ) (英語記事 BBC confronts neo-Nazi who gave UK rioters arson tips