【解説】 イスラエルはガザめぐり「アパルトヘイトを放棄した南アフリカ」的瞬間に直面しているのか

ポール・アダムス BBC外交担当編集委員(エルサレム) ガザでの戦争が長期化する中、イスラエルの国際的孤立が深まっている様子だ。 イスラエルは、かつて南アフリカがアパルトヘイト政策の放棄を迫られた時のような、「南アフリカ的瞬間」に近づいているのだろうか。当時の南アフリカは、政治的圧力に加え、国際社会から経済・スポーツ・文化の各分野でボイコットされたことが重なり、ついに人種隔離政策を撤廃した。 それとも、ベンヤミン・ネタニヤフ首相率いるイスラエルの右派政権は、外交的な嵐を乗り切り、自らの国際的地位に決定的な損害を与えることなく、パレスチナ・ガザ地区や占領下のヨルダン川西岸地区での目標を自由に追求し続けるのだろうか。 2人の元イスラエル首相、エフド・バラク氏とエフド・オルメルト氏はすでに、ネタニヤフ氏がイスラエルを国際社会の「つまはじき者」にしてしまったと非難している。 国際刑事裁判所(ICC)が発行した逮捕令状のため、ネタニヤフ氏が逮捕のリスクなしに渡航できる国は劇的に減少した。 国連では、イギリス、フランス、オーストラリア、ベルギー、カナダなど複数の国が、来週にもパレスチナを国家として承認する方針を示している。 さらに、イスラエルがカタールでハマス幹部を攻撃したことに激怒した湾岸諸国はドーハで集まり、まとまった対応を協議している。イスラエルとこれまで良好な関係のあった一部アラブ諸国に対し、関係の再考を促す声も上がっている。 飢えるガザの人々の姿が、夏の間に映像や写真で次々と世界に伝わり、イスラエル軍がガザ市を侵攻、さらには破壊さえする構えを見せる中で、欧州各国はただの声明を超えた形で、不満をあらわにしている。 ネタニヤフ氏でさえ15日には、イスラエルが国際社会で「ある種の」経済的孤立状態に直面していると認めた。 エルサレムで開かれた財務省の会議で、ネタニヤフ首相はイスラエルが孤立しているのはイスラエルにとって否定的な内容が国外で広まっていることが原因だと批判。それに対抗するには、イスラエルが伝統的メディアやソーシャルメディアで「影響力工作」を展開するために、投資する必要があると述べた。 今月初め、ベルギーは多数の制裁措置を次々と発表した。これには、ヨルダン川西岸地区の違法ユダヤ人入植地からの輸入禁止、イスラエル企業との調達方針の見直し、入植地に住むベルギー人への領事支援の制限が含まれる。 ベルギー政府はさらに、イスラエル強硬派閣僚のイタマル・ベン・グヴィル氏とベザレル・スモトリッチ氏、さらに西岸のパレスチナ人に対する暴力行為で告発されたユダヤ人入植者らを、「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」と宣言した。 イギリスやフランスなど他の国々も、すでに同様の措置を講じていた。だが、アメリカのバイデン政権が昨年2月に導入した暴力的入植者への制裁は、ドナルド・トランプ氏がホワイトハウスに復帰した初日に撤回された。 ベルギーの制裁発表から1週間後、スペインは独自の対応を発表した。事実上の武器禁輸措置を法制化し、部分的な禁輸を発表したほか、ガザでのジェノサイドや戦争犯罪に関与した人物のスペイン領入国を禁止し、イスラエル向けの武器を積んだ船舶や航空機のスペイン港湾や領空への進入を禁じた。 イスラエルの好戦的なギドン・サール外相は、スペインが反ユダヤ主義的政策を推進していると非難し、武器取引の禁止でより大きい損害を受けるのはイスラエルではなくスペインだと主張した。 しかし、イスラエルにとって気がかりな国際社会の動きはほかにもある。 8月にはノルウェーの2兆ドル(約300兆円)規模の政府系ファンドが、イスラエルに上場する企業への投資撤退を開始すると発表した。8月半ばまでに23社が投資対象から外され、イェンス・ストルテンベルグ財務相は対象企業が今後さらに増えるかもしれないと述べた。 この間、イスラエルにとって最大の貿易相手の欧州連合(EU)は、極右閣僚への制裁と、イスラエルとの連携協定に含まれる貿易条項の停止を予定している。 欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は今月10日の施政方針演説で、ガザでの出来事は「世界の良心を揺さぶった」と述べた。 その翌日、欧州の外交官・高官経験者314人が、フォン・デア・ライエン委員長とEU外交トップのカヤ・カラス外務・安全保障政策上級代表に書簡を送り、連携協定の全面停止を含め、従来より厳しい措置を求めた。 かつて南アフリカの少数派白人政権が作った徹底した人種隔離と差別の方針、つまりアパルトヘイト政策が終わるまで、南アフリカに1960年代から科されていた制裁のうち、特に特徴的だったのは、文化・スポーツ分野での排斥だった。 今回もやはりイスラエルに対して、同様の動きが始まりつつあると言えるかもしれない。 この文脈でユーロヴィジョン・ソング・コンテストは、特に重要なイベントだと思われないかもしれないが、しかしユーロヴィジョンには象徴的な意味がある。イスラエルは1973年以降、この大会で4回、優勝しているのだ。 イスラエルにとって、さまざまな国際イベントに参加することは、ユダヤ国家が国際社会の一員として受け入れられていると示す、象徴的な意味合いを持つ。 しかし、アイルランド、スペイン、オランダ、スロヴェニアは、イスラエルのユーロヴィジョン出場が認められた場合、自分たちは2026年大会に欠場すると発表したり、ほのめかしたりしている。最終決定は12月発表の見通しだ。 ハリウッドでは、「パレスチナ人に対するジェノサイドとアパルトヘイトに関与した疑いのある」イスラエルの制作会社、映画祭、放送局に対するボイコットを求める書簡が公開され、1週間で4000人以上が署名した。エマ・ストーン氏やハビエル・バルデム氏といったスター俳優も加わっている。 イスラエル映画・テレビ製作者協会のツヴィカ・ゴットリーブ最高経営責任者は、この署名について「とんでもなく事態を勘違いしている」ものだと述べた。 「私たちを、つまり多様な物語に声を与え、対話を促進する創作者を標的にすることで、署名した人たちは自分の主張を損ない、我々の声を封じようとしている」とゴットリーブ氏は批判した。 ボイコットの動きはスポーツ界にも広がっている。スペインで開催された自転車ロードレース「ブエルタ・ア・エスパーニャ」では、イスラエル・プレミアテック・チームの参加に複数の団体が抗議し、妨害行動を繰り返したため、混乱の中で13日にレースが打ち切られ、表彰式も中止された。 スペインのペドロ・サンチェス首相は一連の抗議活動を「誇らしい」と表現したが、野党政治家らは政府の対応はスペインを国際的にはずかしめたと批判した。 同じスペインでは、イスラエルのチェス選手7人が、イスラエル代表としての出場が認められないと通告され、トーナメントを欠場した。 メディアがすでに「外交的津波」と呼ぶこの状況で、イスラエル政府はもっぱら強気の姿勢で反発している。 スペインの首相は、核兵器も空母も大規模な石油資源も持たない自分の国はイスラエルのガザ攻撃を止めることはできないと発言したのに対し、ネタニヤフ首相は「露骨なジェノサイドの脅し」だと非難した。 ベルギーが制裁を発表した後、イスラエルのサール外相はソーシャルメディア「X」で、「イスラエルは自国の存亡の危機と戦っている。それは欧州の重要利益にも関わるのだが、その最中でさえ、自分たちの反イスラエル的なこだわりを抑えられない者がいるのは残念なことだ」と投稿した。 ネタニヤフ氏は15日、イスラエルの産業が武器や防衛製品を含め、他国の製造業や他国との貿易への依存を減らすべきだと発言した。 「我々は、研究開発だけでなく、実際の製造においても、ブロックされる可能性がある」として、ネタニヤフ氏は「自立自存に向けた能力開発を始めなくてはならない」と述べた。 しかし、海外でイスラエルを代表してきた人たちの間では、深刻な懸念が広がっている。 2017年から2021年まで駐ドイツのイスラエル大使だったエレミ・イッサシャロフ氏は私に対して、イスラエルの国際的地位がこれほど「損なわれた」ことは自分の経験では思い出せないと述べた。ただし、諸外国の一部の措置はイスラエル人全員を標的にしたもので「非常に問題だ」と批判した。 「政府の政策だけを対象にすべきところを、(諸外国の措置は)穏健な中間層のイスラエル人を疎外してしまっている」と、元大使は話した。 元大使はまた、「スモトリッチやベン・グヴィルのような者たちに攻撃材料を与え、ヨルダン川西岸の併合論を強化するはめにさえなる」ので、パレスチナ国家の承認などの措置は逆効果になる可能性が高いと指摘した。 現状を懸念しつつも、元大使はイスラエルの外交的孤立が取り返しのつかない状態にあるとは考えていない。 「今は南アフリカ的瞬間ではない。ただし、南アフリカ的瞬間の、その前段階にある可能性はある」と元大使は話した。 他方、イスラエルが国際社会の「つまはじき者」へと傾斜していくのを阻止するには、もっと根本的な変化が必要だと考える人たちもいる。 「我々は国際社会の一員としての立場を取り戻さなければならない」と、元外交官のイラン・バルク氏は私に話した。 「私たちは、理性を取り戻す必要がある」 バルク氏は、アパルトヘイト廃止の10年後にイスラエルの南アフリカ大使を務め、2011年にイスラエルの占領政策を擁護できなくなったとして外交官を辞めた。退任後は政府批判を声高に続け、2国家解決案を支持している。 バルク氏は、諸外国による最近のイスラエル制裁は必要だと考えている。「南アフリカはそうやって圧力を受けて、ついに膝を屈した」のだと。 バルク氏はさらに、「欧州諸国が利用可能と考えるあらゆる手段で、イスラエルに強い圧力をかけることは、歓迎すべきことだ」と述べた。 必要ならばそれには、ビザ制度の変更や文化的ボイコットも含めるべきだとして、「自分は、その痛みを受け入れる覚悟はある」とバルク氏は述べた。 ただし、各界から怒りの表明や圧力の議論が広がる中でも、イスラエルは決して外交的ながけっぷちに立たされてなどいないと、一部のベテラン外交関係者はそう見ている。 かつてイスラエル和平交渉担当だったダニエル・レヴィ氏は、「スペインのような道を進む意思のある国々は、まだ少数派だ」と話した。 EU内で連携して協定の一部を破棄したり、イスラエルをEUの研究・革新プログラム「ホライズン」から排除したりする動きには(そうすべきだという意見はあるものの)、ドイツ、イタリア、ハンガリーなどが反対するはずで、結果的にEU内で十分な支持を得られないだろうというのだ。 イスラエルはさらに、依然としてアメリカから強力に支持されている。マルコ・ルビオ国務長官は公式訪問へと出発する際、「アメリカとイスラエルの関係は今後も強固であり続ける」と述べた。 それでもレヴィ氏は、イスラエルの国際的孤立は「不可逆的」だと考えている。ただし、トランプ政権が継続的に支援しているため、ガザでの事態の流れを変えられる段階にはまだ達していないという。 「ネタニヤフ氏は、進める道がなくなりつつある」、「けれどもまだ行き止まりには達していない」と、レヴィ氏は話した。 (英語記事 Does Israel face a 'South Africa moment' over Gaza? )

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