保釈が認められず元顧問が被告の立場のまま病死した大川原化工機(横浜市)の冤罪(えんざい)事件を受け、最高裁が保釈の判断について全国の裁判官が議論する研究会を来年1月から開く。 相次ぐ冤罪に刑事司法の信頼が揺らぐ中、容疑を認めない限り、拘束を続ける「人質司法」の実態を直視し、反省に基づく見直しを求めたい。 大川原化工機の事件では、輸出した噴霧乾燥装置が生物兵器製造に転用可能と警視庁公安部は判断し、外為法違反の疑いで社長ら3人を逮捕した。 いずれも容疑を否認し、元顧問は拘留中に胃がんが見つかったが、7回の保釈請求に検察は反対し、東京地裁は退け続けた。刑事訴訟法は、健康・経済上の不利益を考慮し裁判官が職権で保釈できると定めている。 元顧問は病状進行で治療のため拘留が停止されるも、2021年2月に死去した。社長ら2人の拘留は332日間に及んだ。 同社が東京都と国に損害賠償を求めた民事訴訟では、一、二審ともに警察、検察が装置について必要な捜査を怠ったとし、逮捕・起訴を違法と認定した。 警視庁の事件検証では、捜査方針を軌道修正すべきだったと当時の公安部長ら19人を処分。最高検は保釈請求に柔軟に対応すべきだったとした。 しかし、保釈請求を退ける判断を繰り返した裁判所は、憲法の保障する「裁判官の独立」を理由に個別の検証はしていない。 研究会では裁判官数十人が参加し、今後の保釈実務で適切な判断ができるように意見交換するという。身内の論理に傾かないよう第三者も入れ、「人権を守る砦(とりで)」として原点に立った議論をするべきだ。 憲法や刑事訴訟法は推定無罪と身体の不拘束を原則と定め、例外的な場合に拘束が許されると規定している。だが、逃亡や証拠隠滅の恐れを理由に長期拘束が常態化している。 最高裁によると、勾留された人の地裁一審段階の保釈率(21年)は自白事件の32・9%に対し、否認の場合は26・5%にとどまっている。 滋賀県の湖東記念病院事件の再審無罪判決は、捜査官が自白を誘導したと認定。再審無罪が確定した袴田巌さんに対する捜査や裁判手続きの検証でも、捜査員はしつこく自白を迫ったとされ、最高検も静岡県警も不適切だったと認めた。 大川原事件で長期拘留を受けた役員は「疑いがあるというだけで長期の拘束を正当化し、追い詰める。人の自由を奪うことがどれほどの人権侵害なのか。警察も検察も裁判所も分かっていない」と語っている。 「人質司法」がうその自供を誘発し、刑事司法の目的である真実の解明をゆがめてきた弊害を見つめ直す時だ。