国外退去のはずが誤って釈放、移民の受刑者を2日後に再逮捕 イギリス

イギリス・エセックス州で今年夏に難民の受け入れに関する抗議活動が始まるきっかけとなった事件をめぐり、性的暴行などの罪で有罪判決を受け収監されていたエチオピア出身の男性が、誤って同州の刑務所から釈放される事態が24日に起きた。ロンドン警視庁は26日朝になってロンドン市内でこの男性を発見し、再逮捕した。デイヴィッド・ラミー英法相は同日、「今週中」にもこの男性を国外退去させると述べた。 エチオピア出身のハドシュ・ケバトゥ受刑者(41)は、7月7日と8日にエッピング市内で女子生徒に触れようとし、キスをしようとした行為について、9月に禁錮1年の有罪判決を受けた。 イギリスでは2007年国境法に基づき、外国籍の人物が有罪判決を受け、12カ月以上の禁錮刑を言い渡された場合には、国外退去命令が出される必要がある決まりになっている。そのため、ケバトゥ受刑者も24日に国外退去が予定されていたが、代わりにエセックス州のチェルムズフォード刑務所から誤って釈放され、警察が行方を追っていた。 ケバトゥ受刑者が刑務所を出た時の様子を見ていた配送業者によると、同受刑者が「混乱した」様子で刑務所に何度か戻ったものの、刑務所職員に追い返され、駅へ行くよう指示されていたという。 受刑者は26日午前8時半ごろ、ロンドン北部フィンズベリー・パーク地区で逮捕された。 ■14歳被害者に「大きなストレスと不安」 ケバトゥ受刑者が有罪となった事件の被害者(14)の父親は26日、受刑者が誤って釈放されたことで、娘が「非常に大きなストレスと不安」を抱えることになったと述べ、この過失を「信じがたいほど無責任だ」と非難した。 エッピング・フォレスト地区議会のシェーン・イェレル議員(無所属)が代読した声明の中でこの父親は、娘がケバトゥ受刑者に再び遭遇し、認識されるのを恐れていると述べた。 ラミー法相は、過去48時間の間に、警察の連絡担当官が被害者らに接触したと明らかにした。 イギリスの刑務所当局はイングランドおよびウェールズの刑務所長に対し、27日までに、受刑者を釈放する前の追加確認を策定するよう通達を出した。 ラミー法相は、なぜ受刑者が誤って釈放されたのかについて、全面的な独立調査の調査要綱を27日にも議会で明らかにする予定。 これに先立ちキア・スターマー英首相は、すでに調査が始まっていると述べ、「このようなことが二度と起きないようにしなくてはならない」と話している。 ■誤釈放から再逮捕まで ケバトゥ受刑者が誤って釈放されたとエセックス警察が認識したのは、24日午後12時57分だった。しかし、同受刑者はその16分前に、ロンドン東部行きの列車に乗車していた。 釈放直後の受刑者が、チェルムスフォード市の中心部で一般市民と話しをする様子が撮影されていた。エセックス警察は、受刑者が複数の人に助けを求めて接触していたと認めた。 ロンドン警視庁は、ケバトゥ受刑者がロンドンで列車の乗り降りを繰り返し、市内を移動したことを確認した。 警察はその後、24日夜にロンドン・ダルストン地区の図書館近くの監視カメラが撮影した、ケバトゥ受刑者の映像を公開した。受刑者は刑務所支給の灰色のトレーニングウェアを身に着け、アボカドの絵が描かれた白いバッグを持っていた。 ロンドン警視庁によると、警察は6日午前8時3分、フィンズベリー・パーク駅近くのバス停でケバトゥ受刑者とみられる男性を目撃したという、一般市民からの通報を受けた。 警察官が現場に派遣され、16分後に受刑者を発見。不法逃走の疑いで逮捕し、ロンドン市内の刑務所に移送した。 ケバトゥ受刑者は、24日夜に最後に目撃された際に着用していた刑務所支給の灰色のトレーニングウェアとは違う服装で、手錠をかけられた状態で警察官に連行される様子が目撃された。 目撃者の1人は、フィンズベリー・パークで犬の散歩をしていた際に、複数の警察官に連行される同受刑者を目撃したと証言した。 ジャック・ニール=ホール氏(40)はPA通信に対し、「最後に(ロンドン北東部)ハックニー地区で目撃されたと知っていたので、『ああ、あの男にすごく似ている。服装は違うが、彼に見える』と思った」と語った。 「彼は抵抗していなかった。いささか落ち込んだ様子で、静かに歩いていた。うつむいて、フードをかぶっていたが、落ち着いた状況だった」 「手錠をかけられたまま、公園をゆっくりと歩いて出ていったが、逃げようとはしていなかった」 ■7月の事件 ケバトゥ受刑者は、7月7日と8日にエッピング市内で女子生徒に触れようとし、キスをしようとした行為について、9月に有罪判決を受けた。 裁判によると、ケバトゥ被告は少女にキスをしようとし、太ももに手を置いた。また、別の子どもにキスをするよう少女に求め、自分はそれを見ていたという。また、この現場に介入した成人女性の太ももにも手を置いた。 同受刑者が小型ボートでイギリスに到着し、エセックス州エッピングの「ザ・ベル・ホテル」に難民資格申請者として滞在していたことから、この事件は難民の受け入れに関する抗議活動のきっかけとなった。 ■イギリスの刑務所が抱える問題 ケバトゥ受刑者を誤って釈放した事態をめぐっては、刑務官1人が停職処分となった。しかし刑務所幹部の1人はBBCニュースに対し、今回の事件は「一連のミスによるもので、おそらく職員の過重労働と人手不足が原因だ」と述べた。 また、「責任は1人の刑務官だけにあるわけではない。それは不公平だ」と語った。 当局の報告書によると、イングランドおよびウェールズでは、2024年4月から2025年3月の間に262人の受刑者が誤って釈放されており、これは前年の12カ月間の115人から増加している。 誤釈放の件数が増加している理由について問われたラミー法相は、労働党政権が「(保守党から)崩壊寸前の制度を引き継いだ」と述べた。 ウェス・ストリーティング保健相はBBCに対し、ケバトゥ受刑者の逮捕に「非常に安心した」と述べ、同受刑者が「今後、国外退去処分となる」と語った。 また、「(ラミー)法相は、国外退去が予定されていた危険な人物が、なぜ街中に釈放されることになったのかについて調査を命じた」と述べた。 「調査はすでに始まっており、何が問題だったのか、そして今後どう対応するのかについて、国民に対して透明性をもって説明する」 ストリーティング保健相は以前にも、刑務所が極めて大きな圧力にさらされているとした上で、「しかし、そうした状況を踏まえても、街中にいてはならない人物が釈放されたことの説明や正当化にはならない」と述べていた。 最大野党・保守党のアレックス・チョーク元法相は、「教訓を得るため」に調査が必要だと発言。今回の件は刑務所制度全体における、より広範な問題の表れである可能性があると指摘した。 チョーク氏はBBC番組「ブレックファスト」に出演した際、「司法省の年間予算は、労働・年金省が2週間で使い切る額に相当する」と述べた。 「刑務所サービスが必要とする資源を確保し、こうした問題が起きないように、技能と経験を持つ人材を採用・維持できるようにと、私は訴え続けている」ともチョーク氏は話した。 (英語記事 Epping migrant sex offender to be deported 'this week' – Lammy / What happens next after migrant sex attacker's re-arrest? )

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