都内の福祉作業所で働いていた軽度の知的障害のある女性が施設長の男から、裸にされて性器を触られるなどの性被害にあったと訴えた。被害を自覚しにくく、また訴えても信用されにくい状況におかれやすい障害のある人たちの被害をどう防ぐか。課題は多い。 * * * 「大事なところ」 都内の弁護士事務所で対面した30代の女性は、少し緊張した様子でそう答えた。 軽度の知的障害のある女性は、都内の福祉作業所で働いていた際、施設長だった60代の男性(A)から繰り返し性的虐待を受けた。女性に「どこを触られたの?」と尋ねると、こう答えた。 性被害は約6年にも及んだ。2011年4月、特別支援学校高等部を卒業すると、福祉作業所に通うようになった。しばらくして施設長として赴任してきたのが、後に加害者となるAだった。 被害は13年ごろから始まった。いつも女性だけ最後まで作業所に残され、厨房で2人きりになると、Aは抱きついたりお尻を触ってきたりした。それがほぼ毎日のように続き、裸にされ性器を触られたこともあった。 「はじめは、あまりわからなくて」 女性は当時をこう振り返る。触られたこと自体はわかっていたが、それが何を意味するのかわからなかったという。 やがて、同じ職場にいる女性職員にそのことを打ち明け、「性」のことについて教えてもらうと、「おかしいことに気づいた」(女性)。 ■自治体が「性虐待あり」と認定 19年10月、女性は女性職員と一緒に、施設を運営する法人の男性役員(78)に相談をした。 告白を聞いた男性役員は驚き、すぐに法人が補助金を受けている自治体に報告。自治体は関係者らに聞き取り調査を行い、「性虐待あり」と認定した。 女性はAとの和解を目指したが、反省も謝罪もなかった。そこで22年2月、代理人弁護士とともに、Aと法人に対し損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。 裁判を起こした理由について、女性は言う。 「(Aに)ちゃんと謝ってほしかった」 一審では性的虐待があったと認められたが、男性Aは控訴。今年1月、東京高裁で和解が成立した。和解文書には、「不適切な行為だったとして真摯に謝罪する」の一文が盛り込まれた。