自宅などから多種大量の薬物が…〝素人〟大学生の「営利目的所持」逮捕が語る近年の「薬物流通事情」

10月28日、原宿署に到着した警察車両から降り立ったのは1人の若い男だった。捜査担当の刑事や留置担当の警察官に逃走しないように囲まれた男は、下を向いたまま警察官から言われるままに歩く。長い前髪で隠れていた色白の顔が一瞬だけ見えた──。 乾燥大麻やコカインを販売する目的で所持していた大阪の大学生が再逮捕された。 10月29日に警視庁が再逮捕を発表したのは、大阪市生野区の大学生、井上登剛容疑者(22)。8月5日に大阪市内の自宅で乾燥大麻約70g、コカイン約4gを営利目的で所持した麻薬取締法違反の疑いだ。 「警察によると、井上容疑者は同じ大学に通う友人(同法違反で起訴)と共謀してSNSで顧客を募り、主に関西方面で薬物の売買を行っていたとみられています。 4月にこの友人が渋谷区内の駐車場で警察官から職務質問を受けたところ、乗っていたレンタカーから大麻、LSD、覚醒剤、コカインなど大量の薬物が見つかり、逮捕されました。この男が『友人から稼げると勧められた』と供述したことで、井上容疑者の関与が浮上したのです。 井上容疑者は都内のコインロッカーに営利目的で覚醒剤などを保管したり、自身がコカインを使用したなどの疑いで8月以降すでに3回逮捕されています。自宅からは薬物の計量や小分けに使う道具や、注射器などの他に取引に使用していたとみられるスマートフォン8台が押収されました。取り調べに対しては黙秘しているとのことです」(社会部記者) 警察では、井上容疑者の背後に密売組織が存在することも視野に捜査しているという。’23年に発覚した日大アメフト部の大麻事件など、近年大学生が大麻などの薬物で逮捕されるケースは多い。だが、今回の井上容疑者のように大きく報じられるケースはあまり多くはない。使用と所持、さらに今回の営利目的の所持も含め複数回逮捕されていることから、悪質だとみなされたのだろうか。元麻薬取締官の高濱良次氏に聞いた。 ◆様変わりした薬物の「流通事情」 「やはり、大学生が営利目的で大量の薬物を持っていたという点で、特異性がある事件だからでしょう。大麻70g、コカイン4gというのは普通の使用者が持つ量ではないし、一連の事件では覚醒剤やLSDも見つかっています。通常は持っていても2種類ぐらいという例がほとんどです。 大麻の乱用者は増えていて、最近はSNSやテレグラムなど秘匿性の高い通信アプリを使って簡単に売買できるので、素人が小遣い稼ぎで手を染めるケースも多いでしょう。しかし、これだけの量の複数の薬物を供給できるのは、暴力団などの組織だけです。しかも、コインロッカーなど、自宅以外の場所に隠すという手口も素人っぽくありません。〝玄人〟からのアドバイスがあったのではないでしょうか」 高濱氏によれば、薬物売買の実態は昔とは大きく様変わりしているという。 「昔は覚醒剤も大麻も暴力団から買うしかなくて、売買事件はほぼすべて暴力団とその周辺を取りまく人間と相場が決まっていた。素人は滅多にいませんでした。’90年代にイラン人を売人にするようになってから、一般人でも薬物を手に入れやすくなりました。さらに通信機器やインターネットの発達によって素人でも気軽に売買ができるようになってしまったのです。供給元が暴力団など反社会勢力である点は変わっていませんが、売買しているのは素人だという実態が、あらためて浮き彫りにされた事件ですね」 ネットでなんでも手に入る時代に薬物はより身近な存在になっているのだ。

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