米政府は1月、ロシアの石油産業を対象とした制裁を発動し、自国民がロシア企業に油田サービスを提供することを禁止した。これに伴い、米テキサス州ヒューストンに本拠を置く世界最大の油田サービス企業SLB(旧シュルンベルジェ)は、ロシア市場からついに撤退するものとみられた。同社はウクライナ侵攻開始から間もない3年前に、既に同市場からの撤退を約束していた。 ウクライナの調査会社ダラスが入手した文書によると、SLBは新たな制裁が発効したわずか数週間後の2月まで、ロシアの製造業者への独自掘削技術の移転を継続していた。その証拠として、特殊な石油生産設備の設計図のほか、SLBのロシア子会社と現地メーカー間の秘密保持契約や生産契約などが見つかっている。2月付の資料には、電気式水中ポンプに使用される機器の設計図の移転について詳述されていた。これらは油井から原油を継続的に生産するために不可欠な部品だ。 ウクライナは国際的な戦争支援者名簿にSLBを加えることで、西側諸国より一歩踏み込んだ措置を取っている。ウクライナ国家汚職防止庁(NACP)は2023年、SLBはロシアの石油サービス市場の8%を占めており、同国にとって重要な役割を担っているとして、同社を戦争支援者名簿に追加した。同機関は、SLBがロシアに45億ドル(約7000億円)以上の税金を納付し、同国内の工場やサービスセンターで約1万1500人を雇用していることを認めていると指摘した。 ■利益を生むロシア事業 SLBのウェブサイトによると、同社は2024年、ロシア事業で14億ドル(約2200億円)の収益を上げた。これは同社の全世界収益の約4%に相当する。資産総額約500億ドル(約7兆7800億円)の企業としては控えめな数字に見えるかもしれないが、これはロシアのエネルギー部門、すなわち同国の戦争資金の主要源が、先進的な西洋技術の入手先を維持していることを意味する。 ウクライナ国立スミ大学のオレクシー・プラストゥン教授は筆者の取材で次のように説明した。「企業には常にリスクと利益のバランスが存在する。利益が優先される場合、企業は評判の失墜や外部からの圧力を受け入れることをいとわないことが多い。しかし、その圧力が持続的かつ高くなるとバランスは変化する可能性があり、ロシアにとどまるというSLBの決断も変化するかもしれない」 SLBは、米議会でも厳しい監視の目を向けられてきた。ボブ・メネンデス上院議員は2023年、SLBがロシアへの投資を継続していることについて説明を求めた。2024年には50人以上の下院議員が石油業界に対する制裁の厳格化を求めた。 国際NGOのグローバル・ウイットネスは2024年8月、SLBはロシアでの事業を「縮小中」と繰り返し主張しながらも、同国での存在感を強めていると報告した。報告書は、SLBのロシア子会社が2023年12月、将来の化石燃料開発に向け、同国の国立石油地質学研究所(VNIGNI)と新たな契約を締結したことを明らかにした。 同社はロシア人若手技術者の採用を積極的に進めており、現地の大学での就職説明会への参加回数は2023~24年にかけて倍増した。グローバル・ウイットネスの分析によれば、SLBはロシアからの撤退どころか、同国での長期的な将来を見据えた準備を進めているようだ。