当局、火災対応巡り苦心 「反政府」警戒も民意意識 香港

【香港時事】香港北部・新界地区大埔の高層住宅で発生した大規模火災を巡り、当局は対応に苦心している。 警察は独立調査委員会の設置などを求めた大学生の男性を逮捕するなど、当局への批判が反政府活動につながることを警戒。一方で、多数の犠牲者を出した火災は社会に大きな衝撃を与えた。真相究明や責任追及を求める声が広がっており、当局はそうした民意も意識せざるを得ない。 中国政府直轄の治安機関、国家安全維持公署は11月29日、火災に便乗して混乱をもたらす行為は「厳しく処罰される」と警告。被災住民の救助が急がれる局面にもかかわらず、市民にくぎを刺した。 29日に扇動容疑で逮捕された大学生は、独立調査委の設置や政府職員の責任追及など4項目を求める嘆願書を作成。オンラインで署名を呼び掛けたり、現場周辺でビラを配布したりした。大学生は逮捕前、AFP通信に対し、火災は「人災だ」と指摘。現在の香港は欠陥だらけで、「少しでも良くなってほしい」と語った。大学生のSNSを転載しただけで、元区議の男性も翌30日に扇動容疑で逮捕された。 現場近くの被災者支援拠点周辺では、警察がボランティアに物資の撤去を要求するなど、市民の善意を踏みにじるような動きに出ている。過去に民主化デモに参加した人物が支援活動を行うことに神経をとがらせているもようだ。 しかし、20代男性会社員は取材に対し、「こんなにも多くの人が巻き込まれ、非常に深刻だ」と強調。「徹底的に調査し、政府の責任も追及すべきだ。根本的な問題解決に向け、トカゲの尻尾切りにならないよう取り組んでほしい」と訴えた。こうした声が市民の間に広がっている。 香港では2019年の大規模な反政府デモを受け、20年に中国主導で国家安全維持法(国安法)が施行され、社会統制が強まった。市民らの政府監視機能の喪失が今回の火災の一因になったとの見方もある。 「悲しみを改革の力に変える」。政府トップの李家超行政長官は2日、市民の声に応える形で、独立した委員会の設立を表明した。火災の原因究明や安全基準などの制度改革、被災世帯への支援金の支給などを訴え、被災者や遺族に寄り添う姿勢をアピールした。 7日には、民主派が排除された立法会(議会)選挙が予定通り実施される。政府に不満を持つ市民が投票に行かない可能性もあり、投票率が「民意」を測る物差しとして注目されている。

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