「私は軍人ではない!」。極東最大の米軍嘉手納基地を擁する沖縄県沖縄市の「ゲート通り」に外国人男性の叫び声が響いたのは11月22日の深夜のことだった。 米軍の犯罪防止を目的としてパトロール中だった米軍憲兵(ミリタリーポリス、MP)が、米兵と誤認して男性を一時拘束したのだ。 男性の告発を受けて米軍機関紙や地元メディアが報じ、SNSでも拡散されて米軍の対応への批判が集まった。しかし、日本の主権を脅かす米軍の横暴が常態化している中で起きた事態だっただけに、地元からは「いつかはこんなことが起きるだろうと思っていた」との声も上がる。基地の島「沖縄」でいま何が起きているのか。 【"BLM"の一事案として拡散】 米軍準機関紙「星条旗新聞」など複数のメディアによると、問題の拘束事件が起きたのは11月22日午前2時ごろのことだった。単独パトロール中だったMPの隊員らが、飲食店前にいた米国籍の民間人男性を「軍関係者」と疑い取り囲み、身分証の提示を求めた。男性は「私は軍人ではない」と抵抗したが、憲兵は聞き入れず男性の体を持ち上げて地面に叩きつけ、そのまま手錠を掛けて拘束した。 当時の様子を記録した動画がSNS上に投稿されると、たちまち拡散され、米国本土で大炎上する事態となった。 「被害に遭ったのが黒人男性であったことも炎上が広がる一因になったようです。米国では2020年に米ミネアポリス近郊で、白人警官による不適切な拘束によって黒人男性が死亡した、いわゆる『ジョージ・フロイド事件』を発端として『Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)運動』が巻き起こりました。 米国内では、このBLM運動をはじめとする黒人差別が絡む事案には世論が敏感に反応する傾向があり、今回の誤認拘束の件も、同様に黒人コミュニティーの間で大きな批判が起きたようです」(地元メディア関係者) 映像には取り押さえられた男性が「自分を拘束する権利はないだろう!」と声を上げるシーンが収められていた。それに対し、MP隊員は「IDを見せない人間は日本人でも拘束できる。その後、日本の警察に引き渡す」と言い放っている。幸い、男性はその後、「誤認拘束」であることが判明し、現場で解放されたという。 「在日米軍司令部もその後、地元メディアの取材などに、この男性が軍関係者ではない民間人だったことを認め、今回の拘束は行き過ぎだったとして問題視しています。在日米軍は今回の事案の調査を進めるとしており、MPによる単独パトロールも一旦取り止め、隊員の再訓練を行う方針を示しました。米軍としては早い対応で、危機感の現れだとみていいでしょう」(同) ただ、そもそもMPは米軍の規律を守り、米兵の犯罪を取り締まるのが職務の「米軍の警察」という立場だ。米軍と米軍属、その家族らの日本国内での地位を定める日米地位協定に基づき、基地外での活動を一部認められているが、もちろん、日本の警察のような「逮捕権」は有していない。なぜそんな外国の警察が、「パトロール」と称して基地外で強権を発動できたのか。そこには伏線がある。 【主権を脅かす憲兵パトロール】