「皆が顔見知りに」 安心できる地域へ手探り 北九州・中3殺傷1年

2024年12月14日、北九州市小倉南区のファストフード店で中学3年の男女2人が殺傷された事件から間もなく1年がたつ。殺人容疑などで逮捕、起訴されたのは同区長尾2の平原(ひらばる)政徳被告(44)。 中学生が狙われた凄惨(せいさん)な事件は、地域に深い悲しみと痛みをもたらした。事件から1年。あの日を思い返し、二度と起こさないために再起した地域の姿を、住民や専門家の声から探った。 ◇事件の根本理由は 「日ごろからいかに目が届くか、街全体であいさつを交わせるか、身近に人々を感じられるかが防犯の要になってくる」。北九州市小倉南区で6日夜にあった自治会長らによる月1回の定例会議。出席者は子どもたちが安心して笑顔を見せられる地域のため、決意を新たにした。 事件で亡くなった女子生徒が通っていた中学校区を担う「企救丘校区まちづくり協議会」の佐藤稔会長(51)は、当時の切なく悲しい気持ちを思い出す。「自分たちの街で起こっただけに、子どもたち、保護者も怖かったでしょう。子どもたちには輝いていてほしい。そう願っていただけに皆が落ち込んでいた」。佐藤会長の次女は女子生徒と同級生。仲も良かった。だから当初はすごくおびえた。家の鍵は全てかけ、外出時は佐藤会長が一緒に出かけるようにしていた。 登下校中や夜間帯のパトロール態勢が強化された。市内の学校周辺は地域のボランティアがこれまで以上に目を配り、子どもたちを見守った。容疑者が確保されてからも、防犯カメラが増設された。しかし、佐藤会長は事件を引き起こした根本の理由は「防犯の不足」ではなく別にあると感じていた。「人と人とのつながりが持ちづらくなった『社会のゆがみ』」だ。 隣同士でも顔を知らない人が増えた。良かれと思って子どもに声を掛けると不審者扱い。「基本に立ち返り、皆が集まって顔見知りになれるかどうか」が、地域再生の道だと考えている。 ◇まちづくりの鍵は 企救丘校区まちづくり協議会では、住民同士が顔を合わせる機会を増やそうと、3年前から公式LINE(ライン)で誰でも参加できる地域のイベント情報を届けている。校区約5500世帯の中で現在、登録者数は1000人以上。その数は増えつつある。今年7月にあった夏祭りは約3000人が参加。例年以上に盛り上がった。 だが、課題もある。まちづくりは仕事ではなくボランティア。現状では、勤めがある現役世代よりも年配の方々が中心にならざるを得ない。一部に負担が偏れば、長続きはしない。だからまずは、集う場に参加してもらい、まちづくりに携わる人を増やす。無理のない役割分担、次世代へのシフトが、互いに顔の見える、安心できる地域の継続への鍵となる。 今年は、新しい動きがあった。北九州市立大学の学生が毎月2回、実習として子どもたちが下校する際の見守り活動に参加するようになった。活動に加わる若い世代は、住民たちにとって、未来のまちづくりへの希望に見える。【井土映美】

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