今年3月にアメリカ政府の「手違い」で出身国の中米エルサルバドルに強制送還され、その後、密入国あっせんなどの罪でアメリカ当局に刑事訴追されたため同国に帰還し、移民関税執行局(ICE)による拘束が繰り返されていたキルマー・アブレゴ=ガルシア氏をめぐり、メリーランド州の連邦地裁判事は11日に同氏の釈放を命じ、さらに12日にはICEによるこれ以上の拘束を禁止する命令を下した。 メリーランド州のポーラ・ジニス連邦地裁判事は11日、ペンシルヴェニア州で拘束されていたアブレゴ=ガルシア氏の釈放を命令。連邦政府が裁判所から、同氏の国外追放命令を受けていないことを根拠とした。 この命令を受けて同氏は11日に釈放され、翌12日朝に定期チェックインのためICE事務所に出頭するよう命令された。さらに、ボルティモアの移民裁判所判事は11日夜、アブレゴ=ガルシア氏への国外退去命令が「記録から誤って削除されている」として、あらためて退去を命じた。 これを受けて弁護団は、12日朝の定期出頭で同氏が再び拘束されると懸念し、再拘束を禁止する命令をジニス判事に請求した。判事は、同氏の「違法な拘束は疑いようもなく、修復不可能な損害」を与えるとして、再拘束を禁止する命令を出した。 12日朝に定期出頭のためボルティモアのICE事務所を訪れたアブレゴ=ガルシア氏は、集まった支援者を前に、「私は自由な男としてここに立っている。頭を掲げて立っている、私のこの姿を覚えていてほしい」と通訳を介して話した。 「私は闘い続ける。この政府が私に加えたすべての不正義に断固として立ち向かう」、「この国は法の国だと信じている。この不正義は終わると信じている」とも、同氏は述べた。 アブレゴ=ガルシア氏の再拘束を禁じたジニス判事の命令について、国土安全保障省のトリシア・マクラフリン報道官は、「オバマ政権時代に任命された判事による露骨な司法積極主義だ」と批判。「この命令には有効な法的根拠がない。我々は法廷で徹底的に争う」とソーシャルメディアに投稿した。 トランプ政権は今年3月、アブレゴ=ガルシア氏がギャング団「MS-13」のメンバーだとして強制送還した。アブレゴ=ガルシア氏は、自分はギャングのメンバーではないと主張してきた。 同氏は10代だった2011年に、エルサルバドルからアメリカに不法入国した。2019年にメリーランド州で別の男性3人と共に逮捕され、連邦移民当局の施設で拘束されたが、エルサルバドルのギャングから迫害される恐れがあるとして、強制送還を差し止める保護処分の対象になった。 3月にトランプ政権は同氏をエルサルバドルへ送還したが、連邦最高裁は4月に彼をアメリカへ戻すよう命じた。同氏が6月にアメリカに帰還すると、テネシー州で人身密輸容疑で逮捕された。彼は無罪を主張している。 8月にテネシー州の刑務所から釈放されたが、ボルティモアのICE事務所に出頭すると、再び拘束された。その時点でメリーランド州のジニス連邦地裁判事は、同氏の拘束に対する異議を審理する間、政府が彼を第三国へ追放することを一時的に禁止した。 判事は11日の命令で、政府がアフリカのウガンダ、エスワティニ、ガーナ、リベリアへと、アブレゴ=ガルシア氏を追放しようと検討していたことを明らかにした。駐米コスタリカが、同氏の受け入れを申し出たが、政府はその提案を受け入れなかったという。同氏は、アメリカから追放された場合はコスタリカでの定住に前向きだと発言している。 判事は11日の命令で、移民拘束を懲罰目的で行うことは認められず、無期限に継続できないと書いた。 さらにジニス判事は、ウガンダ、エスワティニ、ガーナの3カ国は「実現可能な選択肢ではなかった」ことに加え、コスタリカは「受け入れの意思を決して揺るがさなかったし、同様にアブレゴ=ガルシアは(コスタリカで)再定住する意思を崩さなかった」と述べた。 こうしたことから判事は、「(政府による)拘束の背景にある目的が何であれ、それは『基本目的』である迅速な第三国送還のためではなかった」と指摘した。 (英語記事 Kilmar Abrego Garcia freed from US immigration detention)