社説:ゾンビたばこ まん延防ぐ対策が急務

深刻な健康被害をもたらす危険性を広く社会で認識し、まん延を防ぐ対策を急ぎたい。 若者たちを中心に、「ゾンビたばこ」と呼ばれる指定薬物「エトミデート」の乱用が問題になっている。 海外で手術などに使われる鎮静剤だが、国内は未承認で、過剰摂取すると、意識を失う場合がある。手足がけいれんする危うさから、ゾンビの異名がついたほどだ。 国内で5月には指定薬物となり、輸入や販売、所持、使用などが原則禁止された。 すでに「笑気麻酔」として乱用が見られた沖縄県では、7月の初摘発から9月末までに所持で高校生を含む10人が逮捕、書類送検されている。 他の地域でも検挙が相次いでおり、インドから輸入したとして8、9月に中国籍の男3人が逮捕された事件では、首都圏で対面販売を繰り返したとされる。 日本で市場ができつつある現状が浮かび上がる。暴力団や匿名・流動型犯罪グループ(匿流)など組織的な関与も捜査中だ。 木原稔官房長官は先週、注意喚起とともに取り締まりや予防啓発を強化する考えを示した。 実態を把握し、あらゆる流通を絶たねばならない。 乱用が広がる背景には、交流サイト(SNS)での情報拡散と、電子たばこで吸引できる手軽さがあるとみられる。 秘匿性の高い通信アプリに広告が出され、合法であるかのように誘い込む実態があるという。 大麻と同様、興味本位で手を出したエトミデートが入り口となり、より依存性の高い薬物の使用につながる「ゲートウエードラッグ」になる恐れもある。 学校や地域などで有害性を伝えるほか、相談体制や支援の充実が欠かせない。 ニコチンを含まないリキッド(液体)を加熱して蒸気を吸い込む電子たばこは、販売店の自主規制はあるものの、未成年の購入や使用は違法ではなく、若者らに普及が広がる。見た目では、液体にエトミデートなどの指定薬物が含まれていても分かりにくい。 世界保健機関(WHO)は先ごろ、電子たばこ喫煙者が昨年までに世界で推計1億人以上になっていると発表した。 13〜15歳の割合が、上の年代と比べて9倍高く、青少年の成長に悪影響を及ぼす恐れがあるとして懸念を表している。一定の対策が必要ではないか。

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