2025年10月から毎週土曜夜にレギュラー番組としてスタートしたNHK『未解決事件』の第5回、11月1日の放送が大きな反響を呼んだ。 その回では3つの事件を取り上げていたのだが、そのうちのひとつ、名古屋市で26年前に女性が殺害された事件をめぐって、放送前日に容疑者が出頭し逮捕されるという展開があった。放送は前から予定されており、被害者の夫・高羽悟さんもスタジオ出演していた。その放送直前の劇的な逮捕で、番組は視聴率も高く、とても大きな反響があったという。 その『未解決事件』について、NHKメディア総局プロジェクトセンターの小笠原卓哉チーフ・プロデューサーに話を聞いた。 「『未解決事件』はこれまでNHKスペシャルの中で13年にわたってファイル1からファイル10まで放送していたんですが、実はその中で10年ほど前に、高羽さんの事件についても取り上げたことがあったんです。 高羽さんが現場をずっと保存して、情報提供を呼びかけ続けてきました。この番組も、事件の風化に抗って、放送を通じて情報提供を改めて募りたいというのが出発点ですから、その高羽さんをスタジオにお招きして事件を振り返りるというのが、11月1日の放送でした。26年経って、いきなり事件が動くというのは、私たちにとっても想定外で、かなりの驚きでした」 10月スタート当初は、ファイル1の八王子スーパー強盗殺人事件を2週にわたって放送し、ファイル2の北朝鮮拉致事件では、ドラマとドキュメントの2つのパートを放送した。ドキュメントだけでは表現の難しい部分をドラマで伝えるという手法で、以前のNスぺの『未解決事件』でもとられていたものだ。 レギュラー番組になるというのは24年初めには方向性が決まっていて、番組開始直後に放送された大きな事件の取材は1年近くかけて進められていたという。 「Nスペでやっていた時は、年に1回あるかないかぐらいのペースで、ある程度取材をして、新たな資料が見つかったとか、こういう人が証言してくれるとか、そういう足場を固めたうえで制作を本格始動させていました。毎週放送となった今は、複数のメンバーが同時に、「この事件を掘ってみよう」とあたりを付けて、取材を走らせながら実現可能性を探るケースもあります。10本ぐらいの企画が同時並行で走っています。 私は今、制作統括をやっていますが、プロデューサーとディレクターなどのコアメンバーが20人ほどいます。それに加えて、事件を扱うので、社会部の警視庁担当や他の記者が適宜参加しています。また事件が起きた場所によっては地域局からもディレクターや記者が参加します。Nスペの時の経験値や番組の精神は引き継いでいますが、扱う事件の幅も広がりました。例えば4回目の放送の地面師詐欺のような経済事件は、レギュラー放送となった番組の新機軸の一つと言えます。いろんなジャンルの事件を、分野的にも時間軸的にも広げて、多様にラインナップしていきたいと考えています。 未解決事件は、証拠の乏しさや捜査ハードルの高さなどから、一足飛びに解決に向かうことは容易ではありません。番組でも、なぜ未解決になってしまったのか、その理由や背景を掘り下げながら、事件から教訓を紡ぎ出すことに軸足を置いてきました。 一方で、今回容疑者が逮捕された名古屋の事件のように、DNAなどの証拠さえ残っていれば、現代の技術で捜査が進展するケースもあります。また、防犯カメラが今ほど普及していなかった時代においては、目撃情報も重要な手がかりとなります。番組を通じて事件の記憶を呼び起こして“社会の目”を広げ、真相究明につなげることも追い求めていきたいですね」(小笠原チーフ・プロデューサー)