社説:府警本部長の更迭 安心託せる組織へ見直しを

京都府警トップの信じ難い暴言である。新本部長は風通しの良い組織風土を作り、府民の信頼を回復することが急務だ。 白井利明府警本部長が幹部職員に「殺すぞ」と発言していた事実が明らかとなり、警察庁はパワーハラスメントと認定して事実上更迭した。 都道府県警トップが自身の言動で職務を解かれるのは異例である。 本紙が発言を報じてわずか3日での交代は、社会問題化しているパワハラが組織の信用を揺るがす深刻さを示していよう。 府警などの説明では、問題の発言は8月に2度あった。施策を説明した幹部に発したほか、別に説明した職員と幹部の計3人にも「(担当部門に)『殺すぞ』と伝えておけ」と叱った。 部下の人格を否定した暴力的な脅しであり、断じて許されない。住民の安全を担う府警の長はなおさらだ。警察庁が長官訓戒処分として本部長の職を解いたのは当然だろう。 同庁の調査に対し、白井氏は「施策のスケジュールがあまりに長い」と感じた上、「他府県警の取り組み状況に言葉を濁され、ついイラッとしてしまった」と説明したというが、お粗末としか言いようがない。 白井氏は「キャリア組」の警察官僚で、2023年3月に府警本部長に任じられた。これまでも業務に不満を抱くと報告を受け付けず、強く叱責するなどと複数幹部の証言もある。 国が持つ人事権に守られ、地元職員の異論を認めない特権意識があったのではないか。 白井氏は府議会で発言を認めて陳謝したが、記者会見などで経緯を話していない。組織全体に悪影響を及ぼすトップのパワハラを繰り返さぬため、説明責任を果たすべきである。 京都府警では、府民の信頼を損なう不祥事が続く。22年に警備2課の警察官6人による捜査用の交通費詐取が発覚。昨秋には、捜査2課の警部補が捜査で訪れた民家から金品を盗むなどした事件が次々に判明した。特殊詐欺を防ぐ職務で知り得た情報を悪用していたとされる。 白井氏は今年2月、警察官としての規範意識を再徹底する本部長名の通達を出した。その当人がパワハラ問題とは、府民の不安を増幅しかねない。 6月には鹿児島県警が、警察官の盗撮事件を本部長が隠蔽しようとしたと告発した前県警幹部を情報漏えい容疑で逮捕した。「口封じでは」と本部長の対応に批判が高まった。 本部長は京都府警警務部長も歴任していた。警察庁はきめ細かく現場を指揮していなかったとし、本部長を長官訓戒にとどめている。 キャリア官僚を府県警の要職に充てる警察特有の人事制度が、組織の硬直化を招いていると指摘されて久しい。その見直しを含め、警察庁にも再発防止の取り組みを求めたい。

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