今年、イスラエルとパレスチナが同時に選挙を迎える可能性がある。 実現すれば「中東情勢に大きな影響を与える選挙」という常套句が、文字どおり現実となる。この2つの選挙は両政権の行方を左右するだけでなく、混乱を抱える地域の将来を揺さぶり、ひいては世界にも影響を与えるだろう。 イスラエルでは、2022年末に発足した史上最も右派色の強いネタニヤフ政権が、26年秋に4年の任期を迎え総選挙となる。当然、選挙の焦点は政権継続か否かだ。 ネタニヤフ首相は政権発足以来、司法制度改革をめぐる大規模抗議デモ、ハマスとの武力衝突、イランやヒズボラとの緊張、徴兵制度をめぐる政争と、次々に危機をくぐり抜けてきた。 極右政党との連立は維持され、ガザ再入植といった強硬な主張も現実的ではないと言いつつも、極右への配慮を続ける。 ネタニヤフは政権維持に向けて着々と足場を固め、自身の汚職裁判に対してはヘルツォグ大統領に「恩赦」を求め、アラブ系政党の立候補を妨げるような措置を検討するなど、露骨な手法も辞さない。 国際社会では孤立を深める一方で、ハマス攻撃後に落ち込んだ国内での支持率は回復。最新の世論調査では、ネタニヤフ率いるリクードが再び第1党を確保するとみられている。 だが、外交ではきしみが目立つ。かつて蜜月関係にあったトランプ米大統領も、停戦中のガザやレバノンへの攻撃にいら立ちを見せている。欧州も同様に振り回されており、国際刑事裁判所(ICC)に逮捕状を出されているネタニヤフはもはや「国際的な腫れ物」だ。 その余波は、今や国外のユダヤ人社会にも及んでいる。25年12月、オーストラリア・シドニーでユダヤ人を狙った襲撃事件が発生した。 この出来事は、同年6月にニューヨーク・タイムズ紙のトーマス・フリードマンが指摘した懸念、つまりイスラエルによるガザでの軍事行動が、世界各地のユダヤ人を危険にさらしているという警告を想起させる。 その軍事行動を主導してきたのが、ネタニヤフにほかならない。イスラエルという国家の振る舞いが、国外のユダヤ人をも巻き込む現実を生んでいるのだ。 しかし、ネタニヤフ以上に厄介なのは、06年を最後に選挙が実施されていないパレスチナの状況だ。ガザ地区の惨状を受け、多くの国がパレスチナの国家承認に踏み出したが、その前提条件となるのが「選挙の実施」だ。 だが、アッバス議長率いる自治政府は既に機能不全に陥っており、後継となるリーダーも不在のままである。 世論調査では8割がアッバスの辞任を望んでいるが、指導者の空白が続けば、政情はさらに混迷、社会情勢も低迷し、国家樹立に向けた動きも失速しかねない。 これまで筆者はネタニヤフとアッバスの関係を「互助会」のようなものだとみてきた。両者は対立を装いながらも自らの権力維持のために持ちつ持たれつで、互いを必要とする共依存関係にある。 アッバスは西岸地区とガザ地区に分かれたパレスチナ社会を一枚岩にまとめることはできず、国家建設への歩みを進めることはなかった。そのような都合のいい「穏健派」のアッバスを生かさず殺さず、利用し続けてきたのがネタニヤフでもある。 好ましからざる指導者が退くだけで状況が好転するとは限らない。26年に予定される2つの選挙により、この「互助会体制」が崩壊すれば、政権交代のみならず、社会構造そのものを揺るがし、中東をさらに不安定化させる危険性をはらむ。 その時に両社会がどう向き合うか。それが中東の安定、ひいては国際秩序をも左右することになるだろう。