数日消えない、小指についた紫のインク ミャンマー総選挙の「烙印」

投票を済ませた人々が、係員に手を取られ、容器に小指を浸していく。第1関節までべっとりとついた紫色のインクは、投票の証しだ。二重投票を防ぐためだが、その印は、市民を弾圧してきた国軍が主導する選挙に参加したことを示す「烙印(らくいん)」にも見えた。 クーデターを起こした国軍が全権を握るミャンマーで昨年12月28日、総選挙が始まった。国軍は、拘束している民主化指導者アウンサンスーチー氏を選挙から排除している。国軍に有利な選挙で、今月25日の最終の3回目の投票を残し、すでに国軍は「勝利」を確定させた。 日本など国際社会は公正な選挙とは認めていない。自らの統治の正統性を示すための「国軍のための総選挙」だからだ。 ■前回は誇らしげに掲げた紫色の小指 2020年の総選挙では、最大都市ヤンゴンの投票所に日の出前から長蛇の列ができた。スーチー氏の政党が圧勝し、人々は熱狂。紫色に染めた小指を、投票の証しとして誇らしげに掲げていた。 だが、今回は人影もまばら。「期待はない」「結果は分かっている」。市民の多くは冷ややかな反応だ。投票所の周囲には、銃を持つ兵士の姿もあった。 国軍は昨年7月、選挙保護法を制定した。選挙に異を唱えるだけで逮捕される。弾圧を恐れ、投票に向かった人も少なくないとみられる。 一度付いた紫色のインクは数日は消えない。国軍の圧力に屈したことを周囲に悟られないように、布でこすったり、手で隠したりする人の姿も見られた。 ■「密告」を恐れる市民 電車内で声をかけた男性(30)は、「後ろの車両に警官がいるから」と口をつぐんだ。周囲で誰かが「密告」しないか、市民は常に恐れている。 2月1日にクーデターから5年を迎える。現地の人権団体によると、国軍の弾圧による犠牲者は、これまでに7699人に達した。恐怖と沈黙がヤンゴンの日常に深く根を下ろしている。(ヤンゴン=長島一浩)

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