2016年の1月、元NHKアナウンサーの塚本堅一さん(47)は違法薬物を所持したとして逮捕された。NHKを懲戒免職後、社会での居場所を失った。中傷にもさらされ、心を病んだ時期を過ごした。時を経てそんな暗闇から這い出し、自らの経験を発信する側に立つようになった。「自分で勝手に転んだ」塚本さんが生き直した、この10年の道のりとは(全2回の1回目)。 * * * ■20人近くの「マトリ」が自宅を訪問 「今思えばですが、調子に乗って、ふわふわしていたんでしょうね。だから、私は自分で勝手に転んだんです」 塚本さんはあの日を振り返る。 2016年1月10日の朝のことだった。三連休の、山梨に日帰り温泉旅行に行った翌日で、自宅でゆっくりしていると突然、チャイムが鳴った。訪問者は、「役所のものです」と名乗った。 「20人近くいたように記憶しています。まったく心当たりがなく、なんでうちに役所の人が、こんなに大勢で来るのかと」(塚本さん) ソファに座らされ、両サイドを「役所の人」が囲んだ。 役所の人「怪しいものがあるなら早く出しなよ」 塚本さん「え? 怪しいものってなんですか?」 まさか、あれのことー? しばらくの間を置いて、塚本さんは、部屋に置いていた、ある箱を指さした。 ■「合法」という触れ込みで売られていた 合法をうたって、薬物「ラッシュ」に似たものを作れるという触れ込みでネットで売られていた、製造キットが入った箱だ。「役所の人」たちは関東信越厚生局麻薬取締部の取締官、通称「マトリ」だった。 塚本さんは2003年にNHKに入局し、地方での勤務を経て15年に東京に転属した。 学生時代からの夢は「古典芸能」の中継に関わること。高校時代、学校に内緒でアルバイトをして、お金を貯めて歌舞伎を見に行くほど熱中し、大学でも古典芸能を学び続けた。 逮捕直前の正月には、歌舞伎の舞台中継に関わる仕事を初めて担当した。NHKに入りアナウンサーになること自体がきわめて狭き門なのに、その先の夢も手にしかけていた。 そんな折、塚本さんはその言葉通り、「自分で転んで」しまった。