被害総額7億円超、広告で待ち受ける「副業詐欺」事件から、騙されてしまう心理を学ぶ

警視庁が2月4日、副業詐欺を行っていた男9人を逮捕したと発表しました。2024年以降、全国の10代から70代の450人以上をだまし、被害総額7億円以上となっています。 詐欺師たちは、検索サイトのリスティング広告を悪用しました。ユーザーが、副業やアルバイト、小遣い稼ぎといったキーワードで検索したときに「携帯電話1台で手軽にできる副業」という甘い文句の広告を表示させたのです。クリックすると詐欺師が用意したウェブサイトに誘導されてしまい、いったんやり取りが始まると、あの手この手でお金を奪いに来ます。 例えば、堺市の20代の女性には、副業を始めるための「初期費用」や「仕入れ費用」という名目で金銭を要求しました。もちろん嘘なのですが、最終的に女性は165万円相当の暗号資産をだまし取られてしまいました。 青森県で発生した事例はさらに手が込んでいました。20代の女性がTikTokの副業広告経由で詐欺師のLINEアカウントを友だち登録してしまいます。そこで、動画のスクリーンショットを送るという単純作業を依頼されました。女性が作業を完了すると、なんとPayPayを通じて約26万円もの報酬を受け取ることができたのです。 ここが運命の分岐点でした。最初に「報酬を受け取れた」という成功体験を撒き餌として与えることで、女性の警戒心が解除されてしまったのです。その後、「Rvneyo」というクローズドなトークアプリへ誘導され、「もっと稼げる仕事がある」と持ちかけられます。通常であれば疑念を抱けたかもしれませんが、一度お金を稼げたという体験があるので、期待が上回ってしまったのかもしれません。結果として、「暗号資産の購入」や、出金トラブルを装った「罰則金」の名目で、受け取った報酬の何十倍もの額となる600万円以上を吸い上げられることになりました。 皆さんは、こうした事例を読んでも、心のどこかで「自分はだまされない」と思っているはずです。しかし、自分はリテラシーがあると思っている人でも「正常性バイアス」という名の認知の歪みに足をすくわれます。正常性バイアスというのは、異常事態に直面しているのに、問題を過小評価してしまったり、自分に都合の悪い情報を無視してしまったりすることで、正常な範囲内だと誤認してしまう心理的なメカニズムのことです。検索結果に表示されたり、華美なインフルエンサーを目にした瞬間、脳内の警報装置は「これは安全な例外だ」と誤認処理を行ってしまうのです。 そして一度足を踏み入れてしまうと、次に待っているのは「サンクコスト効果」という呪縛です。詐欺師たちは最初、業務のために数千円程度の作業マニュアルを購入させ、完了した作業の報酬を振り込んできますが、そのあとは、より高額な報酬を得るためには「システム利用料」や「ランクアップ費用」が必要だとして、高額な支払いを要求してきます。そのとき被害者の脳内では「ここで辞めたら、最初に支払ったお金も費やした時間も全て無駄になる」という意識が働き、その回収のために必要なコストだと思い込んで支払いに応じ、結果的にだまされてしまうのです。 このように、すでに投入してしまって回収することができない金銭や労力(サンクコスト)を惜しんで、その後の合理的な判断ができなくなる心理的な現象がサンクコスト効果です。これによって「あと50万円払えば、確実に1000万円が手に入る」そんなあり得ない提案ですら、コストを回収するための希望として輝いて見えてしまうのかもしれません。 現在のデジタル社会において、ネットは世界中の悪意とも直結している危険な場所であると認識しましょう。「誰でも、簡単に、高収入」という3つのキーワードがそろったら、詐欺を疑わなければいけません。楽して稼げるなんて美味しい話は存在しないのです。 もし、あなたの家族や友人が「良い副業を見つけた」と目を輝かせていたら、この記事の内容を伝えてください。手口を知っていれば、踏みとどまることができるかもしれません。そして万が一トラブルに巻き込まれた際は、警察相談専用電話「#9110」などに相談しましょう。 NPO法人DLIS(デジタルリテラシー向上機構) 高齢者のデジタルリテラシー向上を支援するNPO法人です。媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行っています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「[email protected]」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。

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