ショーン・セドン記者、ドミニク・カシアーニ内政・法務担当編集委員 イギリス王室のアンドリュー・マウントバッテン=ウィンザー元王子が、66歳の誕生日を迎えた朝、玄関がノックされたその時、本人はまだベッドにいたのだろうか。真相は今後もわからないままかもしれない。 19日午前8時のことだ。イングランド南部を管轄するテムズ・ヴァレー警察の捜査員たちは、複数の覆面車両に分乗し、3時間かけてイングランド東部へ移動して、王邸サンドリンガムの敷地内に暮らす元王子のもとを訪れた。 現代イギリス史上、最も異例と言えるかもしれない逮捕を実行するためだった。 警察はたとえば、元王子の任意出頭を求め、あらかじめ打ち合わせた日時に警察署を訪れた元王子を、そこで逮捕するということもできた。 しかし、警察はその方法を選ばなかった。 逮捕状執行現場の責任者だった捜査員は、元王子に次のように告げたはずだ。 「あなたには黙秘する権利がある。しかし、あなたが後に法廷で何かの根拠とする事柄について、取り調べの時点で質問されて発言していなかった場合、そのことはあなたの弁護にとって不利になる可能性がある。あなたのあらゆる発言はすべて、証拠として提出される可能性がある」 イギリスの王族がもう何百年も経験したことのない1日は、逮捕時のこの告知をもって始まったはずだ。 アンドリュー元王子が、自分を逮捕する警官や自分自身に危害を加えるとみなされたり、あるいは逃走の恐れがあるとみなされたとは思えない。そのためおそらく、手錠はかけられずに済んだはずだ。 しかし、国王私有地のサンドリンガム邸に私服警官が次々と入り、家の中にある自分の私物を捜索し始める様子を、元王子が目にした可能性はある。 連行される元王子の横を、警官たちが通り過ぎていった可能性さえある。 家宅捜索が続いたこの日、制服警官たちは敷地の周囲をずっと警備していた。 警察は同時に、ロンドン近郊のウィンザー城敷地内にある「ロイヤル・ロッジ」にも押し寄せていた。アンドリュー元王子は22年間暮らしたこの邸宅を今月初め、退去する羽目になっていた。アメリカで性犯罪で有罪とされた富豪ジェフリー・エプスティーン元被告(故人)との交友関係が問題になっていたからだ。 サンドリンガムよりもロイヤル・ロッジの方に、捜索対象になるものがたくさんあった様子だ。 サンドリンガムでの捜索は19日に終了したが、ウィンザーでの捜索は23日まで続く見込みだとBBCの取材で明らかになっている。 元王子逮捕について事前に知っていた人は、きわめて少ない。BBCの取材によると、シャバナ・マムード内相は事前に知らされていたが、全国警察本部長会議に知らされたのは、ほんの数分前のことだった。 王族の公務を管理するバッキンガム宮殿は、事前に知らされていなかった。 しかし、英紙タイムズによると、アンドリュー元王子が逮捕されてからそれが公表されるまでの間に、宮殿は知らされたのだという。これについてBBCがテムズ・ヴァレー警察に確認を求めたところ、警察はタイムズの報道内容を否定しなかった。 19日午前10時の少し前、BBCニュースはアンドリュー元王子の逮捕を伝えた。それからまもなく、テムズ・ヴァレー警察も逮捕を認めた。 その時点でアンドリュー元王子はすでに、逮捕された場所から約60キロ離れたエイルシャムにある、これといった特徴のない警察施設へと移送されていた。 そこでの手続きは通常、当直の留置管理係が容疑者の身元を確認することから始まる。ただし今回の場合、それにはあまり時間はかからなかったはずだ。 アンドリュー元王子は、ほかの誰もが受けるのと同じ手続きを受けた可能性がある。顔写真の撮影と、指紋とDNAの採取だ。ただし例外的に、容疑者の心身がきわめて弱っている場合などには、これが省略されることもあり、手続きの運用には一定の裁量の余地がある。 この時点で、アンドリュー元王子の身辺警護を担当する警護官たちが何をしていたのかは不明だ。留置室まで元王子に付き添って歩いたのかも分かっていない。 留置室のドアが開いた時、故エリザベス女王の3人目の子供が目にしたのは、ベッドとトイレ以外にはほとんど何もない殺風景な部屋だったはずだ。希望すれば食事や着替えが提供されると告げられただろう。 続いて元王子は、選択を迫られたはずだ。24時間対応の地元の当番弁護士の助言を受けるか、あるいは自分の顧問弁護士を呼ぶか。どちらを選んだかは不明だ。 次には、捜査幹部の刑事による事情聴取を受けるため、取調室へ連れて行かれたはずだ。この際、聴取に対する返答は、自分に対する証拠として使われ得るなどの警告を受けただろう。ただし、この事情聴取の内容が公になるのは、アンドリュー元王子が罪で起訴された場合に限られる。 逮捕から11時間して、アンドリュー元王子は留置施設からの退去を許された。捜査中の身での釈放だ。 つまり、行動制限もなければ指定住所に留まる必要もない自由な身になったわけだが、容疑者であることには変わりはない。 警察施設で小さなトラブルが生じたため、元王子の留置時間はわずかに長引いた。 3台のレンジローバーに乗った警護官たちが迎えに来たのだが、警察施設の電動式の門が開かなかったのだ。 職員が10分もの間、門を開けようとあれこれ試したが、迎えの車両は結局、バックして別の入り口を探すしかなかった。 そして、あの写真が撮られたのだ。 あの日のすべてをたった1枚で表現しているかのような、あの写真を撮影したのは、ロイターのフォトグラファー、フィル・ノーブル記者だった。 元王子は、警察に連行された朝に着ていたカジュアルな服装のままだった。待ち構えるカメラを避けようとシートに身をうずめて背もたれに寄りかかり、胸の前で手を組んでいた。 そして、カメラのフラッシュに照らされたその顔には、衝撃と疲労と……そして恐怖さえ刻まれていた。 もし電動式の門がもっと早く開いていれば、ノーブル記者は間に合わなかったかもしれない。その場合、元王子は人目につかずにその場を離れられたのかもしれない。 午後8時ごろ、元王子はサンドリンガム邸に戻り、一時的に滞在しているウッド・ファームへ向かった。 定住する予定の、近くのマーシュ・ファームでは、改修工事が続いている。 人目を離れたそこで、半ば公式な隠棲とも呼べる日々を、王室は元王子に送らせるつもりでいる。 しかし、元王子は66歳の誕生日に逮捕された。それゆえ、王室が望むようなひっそりとした隠棲は、もはや無理なのかもしれない。 (追加取材:マット・プリーシー、ルーシー・マニング) (英語記事 How Andrew's 11-hour detention on his birthday played out)