兵庫県稲美町で2021年11月、民家が全焼し小学生の兄弟2人が死亡した事件で、殺人と現住建造物等放火の罪に問われ、神戸地裁姫路支部の裁判員裁判で懲役30年の判決を受けた兄弟の伯父、松尾留与被告(54)の控訴審初公判が17日、大阪高裁(伊藤寿裁判長)であった。 一審で死刑を求刑し、控訴した検察側は「判決の量刑は著しく軽きに失しており不当」と量刑不当を主張。被告は出廷しなかったが、弁護側は控訴棄却を求め即日結審した。判決は来年3月14日。 一審判決によると、被告は21年11月19日深夜、自宅に火を放ち、就寝中だった当時小学6年の松尾侑城さん(12)と同1年の眞輝さん(7)を殺害した。 判決は、同居する兄弟の両親への恨みから2人の命を奪った結果は「身勝手で悪質」と指摘。一方で、自宅には被告の行動を監視するカメラが設置されるなど親族間のトラブルに起因し、軽度の知的障害も影響したとして、最も長期の有期刑が相当と判断した。 この日の公判で、兄弟の両親が出廷し意見を陳述。トラブルの要因となったカメラの設置について、被告に子どもを怒鳴るなどの異常行動があったとし、「カメラは家族の生活を守るためだった。経緯を分かってほしい」と訴えた。 検察側は「被告を被害者的に扱っている」と指摘。知的障害の評価についても「犯行への影響を過大視している」と主張した。 弁護側は、被告が犯行をためらったことなどに触れ、「生命軽視が甚だしいとは認められない」と反論。親族間のトラブルが原因だと強調し、控訴の棄却を求めた。 ■「今も前へ進めない」遺族が胸中 兵庫県稲美町で小学生の兄弟が殺害された放火事件で、被害者参加制度を利用して控訴審初公判で陳述した兄弟の両親が公判後、取材に応じた。 父親は「子どものことを思うと、今も前へ進めない」と心の内を吐露。「(被告は)なぜ恨みを子どもたちに向けたのか。裁判所は厳正に処罰してほしい」と言葉を振り絞った。(田中朋也) 【稲美放火殺人事件】 兵庫県稲美町で2021年11月19日深夜、木造2階建ての民家が全焼し、就寝中だった小学生の兄弟2人が死亡した。兵庫県警は、押し入れ内の布団にガソリンをまいて火を放ち、2人を殺害したとして、殺人と現住建造物等放火の疑いで兄弟の伯父、松尾留与被告(54)を逮捕。神戸地裁姫路支部は24年2月15日、殺人罪などで懲役30年を言い渡した。