ロシア開発者が侵攻を描くRTSに「これは娯楽ではない、プロパガンダだ」―ウクライナのゲーム開発者が警鐘

いつもGame*Sparkをご覧いただき誠にありがとうございます。Game*Spark 共同編集長の三尾です。 2026年4月1日、Game*Sparkでは『Ukrainian Warfare: Gostomel Heroes』という作品の紹介記事を公開しました。しかし、本作がロシアによるプロパガンダ的な作品であるとのご指摘を多数いただき、その後情報を追記する形で記事を更新しました。 前提として、Game*Spark編集部は現実におけるロシアによるウクライナへの侵攻を支持しません。しかしながら、同記事に関しては、編集部デスクによるゲームのテーマ確認が十分でなく、当初の記事ではロシア側の視点から描かれた、政治的主張の強い作品であることなど、必要な文脈の提示が不十分でした。 その結果、あたかも正反対の、ウクライナ側の視点から描かれた作品であるかのように見える内容として、ロシア側の視点から描かれた作品を十分な補足なしに紹介する形となってしまいました。このような記事となってしまったことは、執筆したライター個人の思想に基づくものではなく、記事の制作依頼および公開をした編集部側の責任によるものです。 公開後、多数いただいたご指摘の中には、ウクライナ・キーウ在住の開発者からの抗議の連絡もありました。そこで編集部は連絡を送ったイリヤ氏にコンタクトを取り、本作に関する問題点や弊誌が報道したことについて、多くの資料と共にコメントをいただきました。ここでは、その内容をお届けします。 「これは娯楽ではない」――進行中の戦争を“英雄譚”として描くことへの強い拒絶 ――取材をお受けいただきありがとうございます。今回、Game*Sparkで当該作品が紹介されたことについて、改めてどのように受け止めていますか。 イリヤ:大きなショックを受けました。実は、Game*Spark様には以前、私が開発した『Beyond The Cupola: ISS Simulator』を取り上げていただいており、非常に感謝していました。同じプラットフォームで、自分の平和的な作品が紹介されながら、一方では現在進行中の侵略を美化するゲームも紹介されている――この事実は、私にとって耐え難いものでした。これは抽象的な話ではありません。私はキーウに住んでおり、ロシアの無人機やミサイルの残骸が近隣の通りの建物を焼いた場面を、何度も自分の目で見てきました。そのような現実の中でこのような記事を見たとき、沈黙していることはできないと感じました。 ――ご指摘の中で、本作を「プロパガンダ」であると強く批判されています。そのように考える理由について、改めてもう少し詳しく教えてください。 イリヤ:このゲームはタイトルからして「Gostomel Heroes(ホストメルの英雄たち)」という言葉を使っています。ホストメルはキーウ州の町で、2022年の占領中にロシア軍が民間人に対して凄惨な戦争犯罪を犯した場所です。 ブチャ、イルピン、ホストメルに駐留した部隊は、非武装の市民を処刑・拷問しました。これは国際機関によって文書化されています。その部隊の兵士たちを「英雄」と呼ぶゲームは、娯楽ではありません――被害者への侮辱であり、犯罪行為の美化です。これがプロパガンダでないとすれば、何がプロパガンダと言えるでしょうか。 ――特にどのような表現や構造が、それをプロパガンダたらしめていると感じますか。 イリヤ:いくつかの点が挙げられます。第一に、タイトルそのもの――戦争犯罪を犯した部隊を「英雄」と描写していること。第二に、ゲームが描く「紛争」の文脈の省略――ロシアの侵攻の本来の目的、すなわちウクライナの首都の占領、国家の消滅、その後の民族浄化の意図が完全に隠されています。第三に、ゲームプレイの構造――プレイヤーはロシア軍側としてウクライナの領土で「作戦」を実行します。これは、現実では戦争犯罪として記録されている行動を、インタラクティブな「体験」として正当化するものです。このような構造は、観客が受動的に観る映画とは異なり、プレイヤーを加害者の立場に直接置きます。 ――映画や書籍ではなく、「ゲーム」というインタラクティブな形式であることに、どのような危険性があると考えていますか。 イリヤ:ゲームというメディアの最大の特徴は「主体性」です。プレイヤーは物語を観るのではなく、その中で行動します。ロシア軍の兵士として、実際に戦争犯罪が起きた場所で「任務を遂行する」という体験は、脳に対してその行為を「正常なもの」「英雄的なもの」として刷り込む効果があります。 認知科学の研究でも、インタラクティブな体験は受動的なメディアより態度変容への影響が大きいとされています。つまり、このゲームは単に「侵略を美化するコンテンツ」ではなく、プレイヤーを積極的に侵略者の視点へと同化させるツールとして機能します。 ――現在も続いている戦争を題材にした作品である点について、どのような問題があると考えますか。 イリヤ:今この瞬間も、ウクライナの都市にミサイルが落ちています。今日も誰かが家族を失っています。「これはゲームの話だ」と言い訳できない現実が存在します。過去の戦争を題材にした作品は、歴史的な距離を持って批判的に考察することができます。 しかし現在進行中の紛争を題材にした場合、そのゲームは事実上、リアルタイムで行われている虐殺の「宣伝ツール」として機能しえます。被害者がまだ生きており、加害者がまだ活動している――その状況の中でこうしたゲームを流通させることは、全く次元の異なる問題です。 ――過去の戦争を扱った作品とは、どのような違いがあると感じていますか。 イリヤ:日本の読者の皆さんに、一つの思考実験をお願いしたいと思います。1945年、広島・長崎への原爆投下の直後に、アメリカ人が日本の都市への爆撃をシミュレートするゲームを作り、そのパイロットたちを「英雄」として称えていたとしたら――日本の人々はどう感じるでしょうか。 これが、私たちウクライナ人がこのゲームに感じることと全く同じ感覚です。過去の戦争を扱う作品は、時間的・歴史的な距離があります。しかし今回の作品は、被害者がまだ苦しんでいる最中に、加害者の行為を英雄的行為として描いています。この違いは根本的です。 たとえば『コール オブ デューティ』のようなゲームも戦争を題材にしていますが、架空の敵や歴史的な紛争を舞台にしています。あるいは批判的・反戦的な視点を持つ作品もあります。 今回の作品が決定的に異なる点は3つあります。第一に、今も続いている現実の侵略戦争を題材にしていること。第二に、実際に戦争犯罪が記録されている実在の場所と部隊を「英雄」として描いていること。第三に、その開発者たちが、戦争犯罪の加害者側と同じ社会に属し、その侵略を支持する人々であるということです。これはフィクションではなく、現実の宣伝活動の延長線上にあります。 ――ロシア側の開発者が、自国の視点から作品を制作すること自体については、どのように考えていますか。 イリヤ:「ロシア側の視点」という表現には注意が必要です。これは「プーチン政権の視点」というより、ロシア社会全体に広く浸透している視点です。ロシアの世論調査や街頭インタビュー、SNS上の発言を見ると、この侵略は少数の権力者だけが支持しているものではありません。自分が徴兵されない限り、多くのロシア市民が積極的に支持するか、完全に無関心であるというのが現実です。開発者たちは、そのような社会の産物です。 「自国の視点から作品を作る自由」と、「進行中の大量虐殺を英雄的行為として宣伝する自由」は、全く別の話です。参考として、ロシアの子ども向け児童病院「オフマトディット」へのミサイル攻撃(2024年7月)に対するロシア国内の反応を調査した研究があります。YouTube上でさえ、50%以上のロシア人がウクライナ側の防空ミサイルが命中したと主張し、VKやOdnoklassnikiでは70~85%が同様の反応を示しました。つまり、情報が遮断された状況下でも、多数のロシア市民が侵略を正当化しようとしているという実態があります。 ――こうした作品をゲームメディアが紹介する際、どのような配慮や文脈提示が必要だと考えますか。 イリヤ:最低限として、以下が必要だと考えます。第一に、ゲームの舞台となっている場所で実際に何が起きたか――国際機関や独立したジャーナリストによって記録されている事実――を明記すること。第二に、開発者の背景とその作品が持つ政治的文脈を読者に伝えること。第三に、「これはある人々の視点を描いた作品です」という免責事項だけでなく、その「視点」が国際法上どのように位置づけられるかを示すことです。ゲームメディアは単なる娯楽の紹介者ではなく、コンテンツが持つ社会的影響についての責任も担っています。影響力のあるメディアがこの種のコンテンツを文脈なしに紹介することは、意図せずとも宣伝活動に加担することになります。 ――日本の読者に対して、今回の件を通じて最も伝えたいことは何でしょうか。 イリヤ:「これは遠い国の戦争の話ではない」ということです。ゲームというメディアを通じて、現在進行中の侵略と戦争犯罪が「普通の軍事作戦」として世界中で認識されていく――このプロセスは、皆さんの生活とも無関係ではありません。プロパガンダは戦場だけで戦われるのではなく、スクリーンの前でも戦われています。 日本のゲームコミュニティは巨大な影響力を持っています。消費するコンテンツについて、「それは誰が、何のために作ったのか」という問いを持ち続けてほしいと思います。そして――今もキーウ、ハルキウ、ヘルソンの人々は空の下で生きています。皆さんの関心が、彼らの存在を世界に伝えることにつながります。 ――もしこの作品の開発者に直接伝えられるとしたら、何を伝えたいですか。 イリヤ:正直に言えば、伝えたいことはほとんどありません。なぜなら、ブチャやホストメルで起きたことを知りながら、その加害者たちを「英雄」と呼ぶ人々と、私は共通の言語を持っていないからです。ただ一つだけ言うとすれば――歴史は残ります。あなた方が作ったものが何であったか、なぜ作られたか、それがいつの日か記録されたとき、あなた方はその記録の中でどこに立っているでしょうか。 ――ありがとうございました。 本記事で紹介した内容は、イリヤ氏から提供された資料および証言に基づくものです。編集部としても公開情報などをもとに事実関係の確認を行ったうえで掲載していますが、引き続き慎重に情報を扱っていきます。 Game*Spark編集部としては、今回の一件を踏まえ、コンテンツの背景や文脈の提示についてより一層注意を払いながら、今後の報道に取り組んでまいります。 イリヤ氏から提供された参考資料 最後に、イリヤ氏から提供いただいた参考資料をご紹介します。 【ロシア社会における戦争支持の実態】 1 OpenMinds調査レポート:「第二のブチャ」――ロシア人はオフマトディット攻撃にどう反応したか 2024年7月、キーウの小児専門病院「オフマトディット」へのミサイル攻撃に対するロシア国内の反応を分析した調査報告書。YouTubeでさえ50%以上のロシア人が「ウクライナ防空ミサイルが病院に命中した」と主張し、VKやOdnoklassnikiでは70~85%が同様の反応を示した。「政治的に中立」なロシア人の26%がウクライナへの差別的発言を行っており、ブチャの虐殺も「でっち上げ」と見なす傾向が確認された。 2 Sota.Vision YouTubeチャンネル(ロシア独立系メディア) ロシア国内の抗議運動、政治裁判、反戦運動を継続的に記録してきた独立系メディア。ロシア当局から「外国エージェント」に指定され、複数の記者が逮捕・拘束された。記者たちはジャーナリズムの実践のみを理由に「過激主義」で有罪判決を受けている。このチャンネルの存在そのものが、ロシアにおける言論弾圧の実態を示している。 3 @notonlyputin(Xアカウント・まとめ) 「これはプーチンだけの戦争ではない」というコンセプトのもと、ロシアの一般市民がウクライナへの爆撃や侵略を公然と支持している様子を記録したアカウント。公式世論調査、街頭インタビュー、ロシアのSNS上の投稿などを継続的にアーカイブしている。 4 @notonlyputin(個別ポスト) ロシアの一般市民が侵略を積極的に支持していることを示す具体的な事例を記録した投稿。 【戦争犯罪の記録・目撃証言】 5 @sternenko(Xポスト) ウクライナの著名な市民活動家セルヒー・ステルネンコによる投稿。ロシアによる戦争犯罪や侵略の実態に関する一次資料および証言を継続的に発信している。 6 @cossackgundi(Xポスト) ウクライナ側からの現地情報を発信するアカウントによる投稿。 7 @KarinaVinnikova(Xポスト) ウクライナのジャーナリスト・活動家による投稿。戦時下の現地状況を記録している。 8 @OlenaHalushka(Xポスト) ウクライナの反汚職活動センター(AntAC)共同創設者オレナ・ハルシュカによる投稿。ロシアの侵略とその国際的な文脈に関する分析を発信している。 9 @frontlinekit(Xポスト) 前線の状況や戦争犯罪に関する記録を発信するアカウントによる投稿。 10 @vvestoxx(Xポスト) ウクライナ侵攻に関連する現地情報・記録を発信するアカウントによる投稿。 17 UNITED24公式(ゼレンスキー大統領のウクライナ支援プラットフォーム)― ブチャの映像記録 ウクライナ大統領府が立ち上げた公式プラットフォームUNITED24による投稿。ブチャにおけるロシア軍の戦争犯罪の映像記録を含む。このゲームが「英雄」として称える部隊が、実際に何を行ったかを示す一次資料。 18 ウィキペディア日本語版:ロシアのウクライナ侵攻における戦争犯罪 ロシアによるウクライナ侵攻において記録された戦争犯罪について、日本語でまとめられたウィキペディアの記事。ブチャ、ホストメル、イルピンをはじめとする各地での民間人への暴力、拷問、処刑などが国際機関の調査に基づいて記述されている。日本の読者が本件の背景を理解するための参考資料として適している。 【ロシアのプロパガンダ・ファクトチェック】 11 @Jpod_art(Xポスト) ロシアのプロパガンダや侵略に関連するビジュアル資料・記録の投稿。 12 @DavidPuente(Xポスト) イタリアのファクトチェッカー、ダビデ・プエンテによる投稿。ロシアのプロパガンダ・ナラティブを検証・反論する内容。 【映像資料】 13 YouTube動画1 14 YouTube動画2 15 YouTube動画3 16 YouTube動画4

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