冤罪(えんざい)被害の救済のため、刑事裁判をやり直す再審制度の見直しに向け、政府が15日に刑事訴訟法の改正案を閣議決定した。冤罪で人生を狂わされた被害者らは、今後の国会の議論にどんなことを期待しているのか。 再審見直し議論の大きなきっかけは、1966年に静岡県で起きた一家4人殺害事件で死刑が確定した袴田巌さん(90)が、2024年に再審無罪となったことだった。姉の秀子さん(93)は14日、報道陣の取材に「私の希望は(検察の)抗告の全面禁止と、全面的な証拠開示」と話した。 政府の改正案が検察の抗告を原則禁止とした点は「ようやくここまで来た。多少は前に進んだが、最終的には全面禁止にするべきだ」と求めた。 今後の国会審議に対し「抗告を全面禁止にしなかったように、法務省は自分たちに都合良く抜け道を作ろうとする。どこまでできるかは分からないが、そういった抜け道ができないよう国会議員には議論してほしい」と注文した。 巌さんは逮捕から48年にわたり身体拘束が続いた。静岡地裁が14年に再審開始と釈放を決めたが、検察が高裁に即時抗告をしたことで審理が長びいた。無罪が最終的に確定したのは10年後の24年だった。 秀子さんは「(検察が)やたら抗告して、犯罪者としての烙印を押されたまま放っておかれた」と批判。「その間、国は何をしていたのか。法律は神様が作ったものではなく、人間が作ったもの。直せないことはない」と述べた。 捜査機関が保管する証拠の開示については、「証拠が出てきたからこそ巌は無罪になった。出されなければ、今ごろ処刑されてしまっているかもしれない。良い証拠も悪い証拠も全部出して、それで裁判をやらないと」と語った。 支援者らによると、巌さんは14日も日課のドライブを楽しんだ。食欲もあり、朝食にはキウイやイチゴなど、果物を好んで食べている。散歩に出かけることもあるという。 秀子さんは、長年の身体拘束で精神を病んだ巌さんについて「元気ですよ」としつつ、「本人はまだ妄想の世界にいる。無罪になったということ以外の話は一切していない」と明かした。 福井市で1986年に起きた女子中学生殺害事件で昨夏、再審無罪となった前川彰司さん(61)は、証拠開示に関する規定について「希望のともしびがともったとはいえ(範囲が)『限定的』と言える」と懸念した。 「証拠開示や、開示証拠の目的外使用の禁止で罰則まで設けることについて、国会議員のみなさんが思いの丈をぶつける闊達(かったつ)な議論を期待したい」 検察官の抗告の要件が、法案の本体にあたる「本則」で厳格化されることについては、前川さんは「冤罪犠牲者の早期救済を目指して全面禁止を訴えてきたので、本意ではない」「本則に入ったことをもって無辜(むこ)の救済が果たされたかというと、とんでもない話」と語った。 前川さんの再審無罪をめぐっては、名古屋高検が、裁判に関わった検察官らへの聞き取りなどの調査を進め、結果を公表する予定だ。(山本達洋、荻原千明)