キャロライン・ホーリー記者、ゴンチェフ・ハビビアザド記者 通話の音には雑音が混じっている。しかし、メフラブ・アブドラザデフ氏の声は力強く、彼の状況からすると、驚くほど落ち着いている。 アブドラザデフ氏は死刑囚として、イラン西部の刑務所に収監されていた。もうすぐ時間切れだと言うかのように、早口で話す。話す内容は、切迫している。 非政府組織(NGO)「クルディスタン人権ネットワーク」が入手した音声記録の中で、アブドラザデフ氏は「あなたが今聞いているのは、オロミエ中央刑務所にいる僕の声だ。僕の声を聞くのは、これが最後になるかもしれない」と話す。 「逮捕された最初の日から、拷問されて、脅迫され、無理やり自白させられた。でも、自白の中身は全くのうそだ。僕にかけられた罪状も、どれも本物じゃない。向こうもそれは知っているし、神もそれを知っている。私は無実だ」と、同氏は語った。 アブドラザデフ氏は2022年に逮捕された。きっかけはこの年、頭髪をスカーフで適切に覆っていなかったとしてクルド系のマサ・アミニさん(22)が道徳警察に逮捕され、その後死亡した事件から広がった抗議行動だった。アブドラザデフ氏には、イランの準軍事組織バシジの構成員殺害に関与した疑いがかけられていた。 眠れない夜が続く恐怖の日々は3年半におよび、アブドラザデフ氏は今年5月に処刑された。 イランではこのところ、政治犯罪や治安関連の罪に問われた人々の処刑が加速している。アブドラザデフ氏はその1人だった。 アメリカとイスラエルが2月28日にイランを攻撃して以降の3カ月足らずで、国連は少なくとも32人の政治犯の処刑を確認したとしている。 死刑の執行数は急増している。人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルによると、政治的な理由による処刑は2025年の場合、1年間で45人だった。 ■「死刑を政治的抑圧の道具に」 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、イランにおいて、政治的な反対意見を封じる手段として死刑がますます使われていると警告している。 今年処刑された人のなかには、イスラエルや米中央情報局(CIA)のためにスパイ活動を行った疑惑を持たれたり、国外に拠点を置く反体制派組織との関係を問われたりした例もあった。 また、今年1月の蜂起に関連して拘束されていた14人も、すでに死刑が執行された。この抗議運動は武力で鎮圧され、数千人が死亡した。 アムネスティ・インターナショナルのナシム・パパイアンニ氏は、「イラン当局は絞首刑によって処刑している。刑の執行は夜明けだ」と述べた。「イランの人々はほぼ毎日のように、朝起きると処刑の発表を聞いている」。 さらに同氏は「当局は死刑を政治的抑圧の道具として武器化し、国民に恐怖を植え付ける手段にしている。端的に言えば、死刑の恐怖によってあらゆる反対意見の芽を押しつぶし、封じ込めようとしている」と指摘した。 OHCHRの報道官はBBCに対し、一部の処刑は公表されている一方で、秘密裏にさらに大勢が処刑されているかもしれないと、懸念しているのだと述べた。 アムネスティ・インターナショナルによると、イランは昨年、1989年以来最多となる2159件の処刑を実施した。同組織は、その大多数が薬物関連犯罪または殺人によるものだとしている。 国連は、今年はこの数字がさらに増えるかもしれないと懸念している。 クルディスタン人権ネットワークのカーヴェ・ケルマンシャヒ氏によると、死刑の使用拡大によって、1月の全国的な抗議とその後の戦争によって損なわれた権威の回復を、当局は図っているという。 「複数の内外の危機に直面している時に、当局は抑圧の強化と処刑の増加を通じて、力の誇示し、『自分たちは依然としてここにいて、状況を掌握している』のだと、主張しようとしている」と、ケルマンシャヒ氏は述べた。 イランの国営テレビは4月下旬、中部イスファハン出身の空手チャンピオン、ササン・アザドヴァル氏(21)の処刑を報道した。アザドヴァル氏は、国家安全保障に対する罪にあたる「神への敵意」と、1月の抗議活動で警察部隊を攻撃したとして「敵との実効的な協力」の罪で有罪となった。自白映像では、同氏が棒で警察車両の窓を割ったことと、火を放つためのガソリンを求めたことを認める様子が映されている。 しかし、アザドヴァル氏は殺人に関する罪で起訴されたわけではなかった。つまり、国際法の下で死刑の適用に必要とされる要件を満たしていなかった。 イラン当局は、アザドヴァル氏の処刑を含めて死刑の執行が増えていることや、国民を拷問しているという疑いについて、BBCのコメント要請に応じなかった。 しかし、イランのゴラムホセイン・モフセニ・エジェイ司法長官は4月30日、1月の抗議行動に関連した死刑判決について、国際社会の批判を一蹴。そのような批判があっても、イランの裁判所が影響を受けないと述べた。 死刑判決を受けた人の立場や状況は、それぞれ異なる。しかし、イランでの死刑には、一定の不穏な傾向があると人権活動家らは指摘する。つまり、国内の少数派に死刑が言い渡される傾向が、不均衡なほど多いのだという。 大学院で航空宇宙工学の修士課程に在籍していたエルファン・シャクルザデフ氏(29)は、5月11日に絞首刑に処された。イランの司法当局は、同氏がイスラエルおよびアメリカの情報機関に機密情報を提供したとして、有罪判決を受けていたと発表した。 一方、ノルウェーが拠点の人権団体ヘンガウは、同氏が死亡前に書いたとされる手記を公表した。 その中でシャクルザデフ氏は、「私はでっちあげのスパイ容疑で逮捕され、8カ月半にわたる拷問と独房監禁の後、うその自白を強いられた。無実の命が沈黙のうちに奪われることを、これ以上許してはならない」と記していた。 ヘンガウは、裁判と量刑言い渡し、処刑が進む速度だけでなく、司法手続きにおける「完全な透明性の欠如」も深刻だと問題視している。 同団体のアイワル・シェヒ氏はBBCに対し、「(イラン・)イスラム共和国は、信頼できる証拠を提示することも、公正な審理基準を保証することもなく、反体制派や批判者を『イスラエルのスパイ』とむやみに非難することで、国民を組織的に抑圧し続けている」と述べ、「多くの命が危険にさらされている」と付け加えた。 処刑前に刑務所で録音した音声メッセージの中で、前出のアブドラザデフ氏は死刑囚としての苦悩を語った。 「死刑判決を受けた者は、夜も昼も常に、今にも呼ばれる、連れていかれる、処刑されるかもしれないと、そう考えている。死刑囚がわずかな安らぎを得られるのは、夜1時を過ぎてからだ。その時は、渦巻く思考をいったん中断して、考えるのをやめて、2〜3時間は眠れるかもしれない」 クルド人で、商店を経営していたアブドラザデフ氏は処刑された。29歳だった。クルディスタン人権ネットワークによると、処刑に際し、親族や弁護士には事前の通知がなく、遺体も家族に引き渡されていないという。 (英語記事 'This may be the last time you hear my voice': Political executions surge in Iran since start of war)