けんか、罵倒、嘲笑…高市首相「中傷動画」問題で再注目、「鉄板コンテンツ」政治動画の実態

昨年秋の自民党総裁選で有力候補だった小泉進次郎・現防衛相と林芳正・現総務相を誹謗中傷し、揶揄嘲笑するSNSショート動画の作成に高市早苗首相事務所が関与していたと週刊文春が報じ、波紋が広がっている。総裁選では自身のステマ疑惑が浮上した小泉候補が失速した一方、国民的人気を得た高市候補が党員票で圧勝して総裁の座をつかんだ。 その裏で、高市陣営による別のステマがあったとなると「これが永田町の常識か」と嘆息する声も聞こえてくる。 文春によると、2月の総選挙で中道改革連合の幹部を揶揄する動画が拡散した件にも高市首相の秘書が関与。自民党の歴史的大勝に終わった選挙後、「旧立憲民主の害獣を沢山駆除する事ができました」というメッセージが秘書から動画作成者に送られたという。 高市首相は国会質疑で自身の関与は一切ないとし、「陣営としてもそのような発信は行っていないという報告を受けている」と答弁した。 高市首相が1992年の初出馬以来、誹謗中傷に悩まされてきたことを考えると、本人が関与したとはにわかには考え難い。秘書とのやりとりを「告発」した動画作成者は、高市首相の名前を冠した暗号資産「サナエトークン」の発行を強行して物議を醸し、謝罪に追い込まれた人物でもある。彼の言い分をうのみにするのは危険だが、それでも大きな問題が投げかけられた。 背景にはまず、SNSにおけるショート動画の隆盛がある。TikTok、X、YouTubeなどの投稿プラットフォームには、閲覧数に応じて投稿者に報酬が支払われる仕組みがある。このアテンション・エコノミーの下で閲覧数を稼ぐために、地上波テレビでは放映できないような過激な内容がもてはやされる。この傾向は、次々にスワイプして閲覧することが前提のショート動画で顕著になる。 そこに2024年以降急速に進んだ「選挙におけるSNSの武器化」が加わる。13年の公職選挙法改正でインターネット選挙運動が解禁されたが、規制対象は候補者自身によるメール配信や有料ネット広告利用で、昨今のSNS事情には対応できていない。 そのため事実上無制約のSNS空間が選挙における空中戦の主戦場となり、自画自賛の広報・広告から対立候補への誹謗中傷まで、大量の動画が投下され、選挙結果を左右するようになった。陣営自ら手がける場合もあれば、報酬目当ての「切り抜き職人」による「勝手動画」もある。 選挙動画は閲覧数を稼げるアテンション・エコノミーの優等生で、特に自民党総裁選挙は最も注目を集める鉄板コンテンツだ。 しかし総裁選は政党内の党首選出制度のため公職選挙法が適用されず、自主規制に頼るしかない。かつては総裁選で「実弾」が飛び交う時代もあったが、今では政治家個人が現金を受領すれば政治資金規正法違反になる。2つか3つの陣営あるいは全陣営から現金をもらう「ニッカ・サントリー・オールドパー」は死語だ。 代わりに議員票は義理と人情、嫉妬と恐怖、利権とポストで動くが、党員・党友も投票する「フルスペック」の総裁選では、国民的な人気も重要だ。

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