日本人の給料が上がらないのはトヨタのせいだった…「高品質なのに低価格」が日本を貧しくする"絶望の構造"

なぜ日本人の賃金はアメリカと大きく差が開いてしまったのか。経営コンサルタントの森生明さんは「多くの日本企業が『お客様は神様』という信条のもと、高品質な製品を安価で提供してきた。しかし、この『顧客重視』こそが、実質賃金を押し下げ、日本経済を低迷させた」という――。(第4回) ※本稿は、森生明『会社の値段[新版]』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。 ■顧客重視こそが日本流の企業価値 買収提案を受けた日本企業がそれを拒絶する理由として「長期的な企業価値の向上に資するか」を主張する時、以前は社員・取引先というステークホルダーの雇用・取引維持が挙げられました。しかしながら、失われた30年の間に終身雇用や年功序列は崩れ、実質賃金を上げられない時代になり、社員や取引先というステークホルダーの利益を「会社が守るべき」という主張は通用しなくなりました。 失われた30年の間に、それと入れ替わる形でステークホルダーの中核を占める立場になったのは「顧客」なのではないか? 学術的に検証された分析ではない私自身の印象論ではありますが、日米の企業姿勢の違いから紐解きます。自由競争の世界は昔から弱肉強食。強者である企業が、弱者である消費者顧客から容赦無く収奪するという世の中をどうしても生み出します。 通常のモノやサービスの売買において、値段は需要と供給により決まるものですから、高く売れるものをわざわざ安く売るのは株主利益の最大化の観点からは悪い経営です。ただし強者による収奪が行き過ぎる場合は独占禁止法などで規制する。これが新自由主義的資本主義の基本スタンスです。 これに対して日本企業の多くは、昔から、近江商人の「買い手よし、売り手よし、世間よし」の「三方よし」に代表されるとおり、利益を上げることに節度を持ち、長期的な信用と社会貢献を重視してきました。 ■「お客様は神様」がもたらしたデフレ経済 その姿勢は「顧客を大切にする」から「お客様は神様」になり、バブル崩壊以降も「値上げは悪」という同調圧力を長く植え付け、デフレ経済と実質賃金の伸びに低迷をもたらしてしまいました。米 国のいきすぎた新自由主義、株主利益の最大化をめざす経営の極端な象徴がマーティン・シュクレリというヘッジファンドのマネージャー、2015年のフォーブズ誌で「米国で最も憎まれている男」として取り上げられた人物です。 彼は特許切れなのに競合ジェネリック品が出ていない薬の販売権を買取り、薬価の法外な値上げをするという手法で巨額の利益を上げました。法規制の隙間に目をつけ、独占的地位から「経済的レント(超過利潤)」を得る行為です。 他に選択肢がない患者の弱みにつけ込むやり方への社会の批判に対し、シュクレリは「私の仕事は病気の患者を良くすることではなく、お金を稼ぐことです」「株主は私が利益を出すことを期待しています。醜く、汚くとも、それが真実です。利益を最大にするというのは、医薬業界の人間が怖くて言えないことです」と言い切りました。さすがに彼のやりかたは問題視され、結局、証券詐欺の罪で逮捕され禁錮7年の有罪判決を受けましたが、その罪は弱者顧客から搾取した罪ではありません。

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