日本航空(JAL/JL、9201)で乗務員の飲酒問題が続いている。2024年12月と2025年8月にはパイロットによる飲酒問題が発生し、今月23日には客室の責任者を務める先任客室乗務員(チーフキャビンアテンダント)の飲酒により、広島発羽田行きJL252便が42分遅延した。 2018年10月にロンドンで副操縦士(当時、懲戒解雇)が逮捕されて今年で8年。一連の対策後に発生している飲酒問題は、会社が実施する自主検査で発覚している。先に挙げた2024年12月と2025年8月、そして今月の飲酒問題は、すべて航空法に基づいて実施される本検査前に発覚している。 しかし、飲酒問題は本当にJALだけで起きているのか、それともJALで表面化しやすい構造があるのだろうか。自主検査であれ、法律に基づく本検査であれ、飲酒問題が起きていることに変わりはないが、なぜJALだけ表面化しているのだろうか。 ◆自主検査で表面化 2024年12月、2025年8月のパイロット飲酒問題と、今回の客室乗務員の飲酒問題は、いずれも航空法に基づく本検査「乗務前検査」ではなく、会社が自主的に設けている前段階の検査で発覚したものだった。本検査でアルコールを検知する事態を防ぐための自主検査が、結果としてJALの飲酒問題を表面化させているといえる。 航空会社では、航空法に基づく「乗務前検査」とは別に、各社が自主的なアルコール検査を設けている。JALの場合、社内規定に基づく検査として、自宅や宿泊先のホテルで実施する「出社前検査」と、空港オフィスなどで実施する「事前検査」がある。その後、航空法に基づく「乗務前検査」と到着後の「乗務後検査」を実施する。 この前段の自主検査は、航空法に基づく「乗務前検査」でアルコールを検知する事態を防ぐための仕組みでもある。JALで安全問題の責任を負う「安全統括管理者」の中川由起夫・取締役常務執行役員は5月27日の記者会見で、「出社前検査」と「事前検査」について、「乗務前検査」で呼気1リットルあたり「0.00」ミリグラムのアルコール、すなわち「アルコール・ゼロ」を確認するために設けているものだと説明した。 「出社前検査」を通過しない状態であれば、乗務から外す判断が必要で「ホテルの部屋や自宅から出るべきではない」(中川氏)との認識を示した。 ◆「体調不良」という現実解 パイロットを含むJAL以外の複数の航空関係者によると、航空法に基づく「乗務前検査」の前段階で微量のアルコールが疑われる場合、会社側が「体調不良」として早期に交代させる例もあるという。 本検査の前であれば、会社の安全管理上の判断として乗務から外すことができる。飲酒の疑いがある乗務員を乗せないという目的は達成でき、早い段階で交代要員を手配できれば、当該便の遅延を最小化できる可能性もある。 この運用では、仮に便が遅れても対外的には「体調不良」や「乗員交代」として扱われる。仮に飲酒が背景にあったとしても、航空法に基づく「乗務前検査」で検知されたわけではなく、飲酒事案として表面化しにくい。 体調不良として早期に交代させれば、飲酒の疑いがある乗務員を乗せないという、安全上の目的は果たせる。しかし、アルコールに関するルールが守られなかった可能性は社外から見えにくくなり、本人が同じ問題を繰り返さないとも限らず、飲酒管理や職業倫理の問題を根本から改める仕組みとしては不完全だ。 ◆透明性と運航影響 こうした点で、JALは自社が定めたルールを比較的正面から運用しているとも言える。自主検査でアルコールを検知し、それが乗務員の交代や遅延につながれば、飲酒起因の事案として説明する。情報開示の面では透明性があるが、手順通りに検査や再検査を進めるほど、交代判断が遅れ、遅延や欠航といった運航への影響が大きくなるリスクもある。 今回のJL252便の問題も、客室乗務員に対する「出社前検査」は会社へのオンライン通知機能がなく、本人が報告しなければ会社が把握できない仕組みだった。JL252便に乗務予定だった先任客室乗務員(チーフキャビンアテンダント)は、「出社前検査」でアルコールを検知しながら会社へ報告せず、同乗予定だった他の客室乗務員から検査を再三促されても、検査を実施しないまま空港へ向かった。結果として、会社が把握したのは空港での「事前検査」の段階となり、交代要員の確保に時間を要した。 この問題は、単に検査回数を増やせば解決するものではない。自主検査でアルコールが検知された場合に、どの段階で乗務不可と判断するのか。航空法に基づく本検査前であれば乗務可能なのか、あるいは飲酒の疑いを「体調不良」として早期交代させるのか、それとも飲酒事案として扱うのか。運航への影響を最小化する判断と、飲酒ルール違反を正しく把握する判断は、必ずしも一致しない。 ◆責任は個人か会社か 海外の航空会社幹部は、日本で飲酒問題が会社の管理責任として扱われることに首をかしげる。海外では、飲酒は個人の問題であり、法律や会社のルールを破れば、本人が職を失うことも珍しくない。航空従事者としての適格性を欠いた個人の問題として扱い、会社が大人の行動をどこまでも管理する発想とは距離がある。 日本では、飲酒問題が起きるたびに、会社の検査制度や管理体制、再発防止策が問われる。もちろん、航空会社が安全運航の責任を負う以上、乗務前の状態を確認する仕組みは不可欠だ。しかし、パイロットも客室乗務員も安全を担う専門職であり、自らの責任でルールを守ることが前提でもある。 飲酒の疑いがある乗務員を乗せないことは当然だ。問題は、その判断をどの段階で行い、外部にどこまで説明するかにある。「体調不良」として早期に交代させる運用は、運航への影響を抑える現実解になり得る。一方で、飲酒ルール違反を見えにくくするのであれば、アルコール対策としては不完全だ。 JALが自ら定めたルールを守り、飲酒事案として説明する姿勢は、透明性という点では評価できる。しかし、それが運航への影響を大きくしている面も否定できない。こうした「体調不良」として早期に交代させる運用は、飲酒の疑いがある乗務員を乗せないという目的を果たし、正直にルールを守っている乗務員への運航負担を軽くする現実解にもなり得る。 一方で、ルール違反を見えにくくすれば、問題のある乗務員が同じことを繰り返す余地も残る。会社が乗務員の行動をどこまで管理すべきなのか。ルールを破った乗務員個人にどこまで責任を負わせるべきなのか。海外のように、会社の問題ではなく個人の体調管理と適格性の問題として、ルールを破れば一発アウトとする方が、正直にルールを守っている乗務員の立場も守られるとも言える。 JALで表面化する飲酒問題は、空の安全を守る仕組みのあり方を問いかけている。