短調の調べは、危機の時代に届くのか。第61回ヴェネチア・ビエンナーレ「In Minor Keys」レビュー(評:島田浩太朗)

「彼女は私たちの指揮者だった。彼女が作曲し、私たちは即興した」。第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展「イン・マイナー・キーズ」(In Minor Keys)のオープニング記者発表で、キュラトリアル・チームのラシャ・サルティはそう語った。2025年4月、ダカールのRAWマテリアル・カンパニー(RAW Material Company)で行われた1週間の会合は、マンゴーの木の下で進められ、作家の名前が口にされるたびに果実が落ちることがあったという(*1)。チームはその出来事を、芸術監督コヨ・クオが残した展覧会の楽譜を読み解くためのリズムとして語った。クオは2025年5月10日に急逝した。しかし本展は、たんなる追悼展として組み立てられたわけではない。追悼の感情は随所に流れているが、それはクオがつないできた知的系譜を持続させるための方法である。彼女は生前すでに理論的枠組み、参加者、作品、カタログ、展示建築に至るまで具体的に定めており、「イン・マイナー・キーズ」は、残された者たちがそのスコアを演奏する展覧会として実現された(*2)。 クオはRAWマテリアル・カンパニー創設者、ツァイツ・アフリカ現代美術館(Zeitz MOCAA)エグゼクティブ・ディレクターとして、アフリカとディアスポラの芸術実践を制度の中心へ押し広げてきた。だが本展の幕開けは静かではなかった。国際審査員団は、ICC(国際刑事裁判所)による捜査や逮捕状を背景に、ロシアおよびイスラエルの参加を賞対象から外す方針を示したのち、その判断をめぐる反発と混乱のなかで総辞職した。通常の開幕時授賞は宙づりとなり、来場者投票による「ビジターズ・ライオンズ」賞(Visitors' Lions)が導入された(*3)。さらにプッシー・ライオット(Pussy Riot)とフェメン(FEMEN)がロシア館前で抗議行動を行い、ロシア館自体も制裁への対応から、プレビュー期間中のみ関係者に公開され、一般公開期間には閉館し、記録映像を窓越しに提示する形式になったと報じられた。また70名超の参加作家が来場者投票による新たな賞制度からの辞退を表明し、ANGA(Art Not Genocide Alliance)のストライキでは多数の国別館が全面または部分的に休館した(*4-6)。かすかな声に耳を澄ませることを求める展覧会は、開幕時から戦争、占領、制度への抗議という騒音のただなかに置かれた。

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