燃料不足による非常事態が影響──エルミタージュ美術館、クリミア半島の考古学調査を一時中止

ロシアが一方的に併合し、実効支配を続けるクリミア半島で、燃料不足が深刻化している。ウクライナ側はロシアの軍事行動を妨げるため、補給網を標的とした攻撃を続けており、ロシア政府は6月26日に非常事態宣言を発表した。こうした状況を受け、サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館は、クリミア半島で予定していた考古学調査をすべて一時中止するという。 エルミタージュ美術館で考古学部門の責任者を務めるアレクサンドル・ブチャギンは、ロシアの国営通信社タス通信に対し、状況が改善するまで調査を延期すると説明。「現状では通常の調査活動を展開することは非常に難しい」と語った。地元メディアによれば、ブチャギンは先月クリミア半島で発掘を行う予定だったが、拠点をロシア南部のクラスノダール地方に移したという。 ブチャギンは、ヨーロッパの考古学界で物議を醸してきた人物だ。昨年、ウクライナの検察当局は、クリミア半島にある古代遺跡ミルメキオンを、ウクライナ当局の許可なく発掘したとして、ブチャギンを告発した。その後、ウクライナ側の身柄引き渡し要求を受け、彼は2025年12月にポーランドで拘束された。 3月には、ワルシャワ地方裁判所がウクライナ側の引き渡し要求を法的に妥当と判断した。しかし、ブチャギンの弁護士が控訴したため、ポーランドでの審理が続く間、引き渡し手続きは停止された。その後、法的手続きが完了する前に、アメリカの仲介で行われたベラルーシとロシアを含む囚人交換の一環として、ポーランドはブチャギンを釈放し、彼はロシアに帰国している。 一方、クリミア半島におけるロシアの考古学調査は、ウクライナ側や国際的な考古学コミュニティとの間で、依然として争点になっている。ウクライナはロシアによるクリミアの領有を認めておらず、同地で発掘調査を行うには、ウクライナの法律に基づく許可が必要だと主張している。 ウクライナ国防省情報総局は2025年2月、ブチャギンを政府のデータベース「War and Sanctions(戦時下の制裁)」に登録した。このデータベースは、ロシアが占領する地域でウクライナの法律に違反したとされる人物を追跡するものだ。同局は、ブチャギンがクリミアの古代ギリシャ植民都市ミルメキオンで率いた考古学調査を問題視しており、調査隊がアレクサンドロス大王の名が刻まれた26枚を含む計30枚の金貨を持ち去り、保護対象の遺跡に損害を与えたと非難している。 これに対し、ロシア側はウクライナの主張を根拠のないものとして退け、ブチャギンの活動はクリミア半島の文化遺産保護に貢献していると擁護した。エルミタージュ美術館長のミハイル・ピオトロフスキーもブチャギンの逮捕を批判し、西側諸国による対ロシア制裁と結びついた政治的圧力だと主張している。 一方でウクライナの研究者たちは、考古学的遺跡が、同地域の歴史をめぐるロシア側の歴史観を正当化するために利用されていると反論している。研究者たちがその例として挙げるのが、ユネスコ世界遺産に登録されているケルソネソス・タウリケだ。2014年にロシアがクリミアを併合して以降、同地には国際社会による監視の目がほとんど届かない状態が続いているという。 こうした論争の背景には、4年目に突入したロシアによるウクライナへの侵攻がある。戦争が続くなか、文化財の略奪や移送をめぐる問題も深刻化しており、クリミア半島でもその対立が表面化している。侵攻開始以降、ウクライナの文化当局は、ロシア軍が美術館のコレクションを略奪したと非難しており、行方不明になった作品の一部は、その後クリミアの美術館で展示されていることが確認されている。 今年初め、ウクライナのヘルソン州立美術館は、2022年に同館のコレクションから持ち去られた美術品100点の所在を確認したと発表した。そのなかには、ニーナ・マルチェンコ(Nina Marchenko)が1986年に制作した絵画も含まれている。同館は、これらの作品がロシア軍によって略奪され、現在はクリミアのタヴリダ中央博物館に収蔵されていると主張している。ヘルソン美術館のSNS投稿によれば、この絵画は、ロシアが設置した占領当局の公式訪問時に撮影された写真の中で確認されたという。

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